稽古場日誌

その他 渡辺可奈子 2020/12/06

昇華できる仕事

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新型コロナウイルスの出現によって、世の中から演劇をやる意義が問われております。
そんな中、今年も研修生が集まってくれました。その中には、それぞれに様々な理由や決断があったことでしょう。
そこで、今回の劇団員による稽古場日誌は「何故ワタシは演劇をやるのか」をテーマとして、今年度の研修生を応援していきます。
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小中学生の頃、ぼんやりとした嫌な事が沢山あって、その記憶が長い事付き纏っていました。今思い返せば大したことではないのですが……
演劇を始めたきっかけも、有名人になって当時私に嫌な事をしてきた人たちに復讐してやろう、と言う気持ちがあったような気がします。
私を仲間外れにした人たち、私の事を振った男の子、言ってる事を理解してくれなくて全部私が悪いみたいにしてきた先生などなど、「みんな後悔しろ!」と思っていました。

しかし実際に演劇に関わり、色んな人と出会って気が付いたのは、人には人の事情があると言う事でした。

生まれ育った環境だったり、友人関係だったり、職場での出来事だったり。人生って人それぞれにぼんやりとした嫌な事が盛りだくさんあると思うんです。

演劇って、そのぼんやりとした嫌なことの正体を発見する作業だと思っていて、それは自分のせいなのか? 他人からの攻撃か? 原因はなんだ? なんで嫌なのか? なんでそんな言い方するんだ? なんでなんで? を見つけて自分なりに解釈して作品として昇華する。
この作業をするだけで、少し心が癒やされるのです。

だから私が演劇をするのは、人と上手く接するための儀式なのかもしれません。

このご時世、何を信じていいのか、どうしたらいいのか分からない事だらけで、ぼんやりとした嫌な事に飲み込まれそうで人にあたっちゃったり、ひとり思い悩んでる人が沢山いると思います。今期の研修生もきっと例外ではありません。というか、研修生の時期を思い返すとずっと悩んでました、私は。

でもそれでいいんだと思います。
折角こんな時に演劇に出会えたのだから、悩みに悩んで自分の抱えている事情を思う存分に昇華して欲しいと思います。

渡辺可奈子

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