稽古場日誌

私が高校生の頃、静かで可愛らしい国語の先生がいた。
授業というものは教材を使って、または何らかの資料をもとに行うのが普通だが、その先生はたまに教材には載っていない文学作品を聞かせてくれることがあった。本も何も持たずに、先生自身が語り聞かせてくれるのだ。時にはそれで授業が一本潰れることもあった。私はその時間がとても好きだった。
そのなかでも一際、私のなかで印象に残っている話がある。
芥川龍之介の『杜子春』だ。
いたって単純な話であるが、当時の私にとって結末が衝撃的で、えらく感動しものだ。

そんなことを大人になった今ふと思い出し、もう一度読んでみる。
しかし、感動できなかった。
杜子春と自分を重ねて負の感情に陥ってしまったからだ。

先生はあの時なぜこの作品を聞かせたのだろう。
なにか悩みでも抱えていたのだろうか。
少なくとも私がこの歳になって読んだ『杜子春』には、感動ではなく社会での不満がふつふつと沸いた。
先生、感動を与えたくて聞かせてくれていたのならごめんなさい。私は静かに感動などしていられません。
怒り、暴れたくなりました。

今度は私の出番だ。
出来るだけ多くの人に聞かせよう。日常の不満を込めた、私の『杜子春』を。

喜多京香

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『杜子春』あらすじ

杜子春は元は金持ちの息子であったが、今は寝泊りする場所もないほどの貧乏にあえいでいる。
困り果てていると、一人の老人が現れ、杜子春にたくさんのお金を与えて姿を消す。
しかし贅沢な生活も一年二年と経つうち杜子春は再び貧乏に戻る。
人間に愛想を尽かした杜子春は、そこで老人の弟子になり、仙術の修行を決意する。
おなじみの『杜子春』を、喜多京香が一風変わった切り口で語り倒す。

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劇団 山の手事情社 公演『池上show劇場【DELUXE】』

構成・演出=安田雅弘
日程=2021年9月17日(金)~19日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

公演情報詳細は こちら をご覧ください。

配信でもご覧いただけます。

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