どんな風景を見るのか？

今まで男性の描いた作品ばかりを演ってきたので、この機会に女性の描いた作品をやりたいと思い、今回瀬戸内晴美の『鬼』を演じることにしました。

瀬戸内晴美、つまり瀬戸内寂聴さんは、テレビ等で見かけるあの朗らかな人柄からは想像しにくいですが、恋多き女性で、男と女の烈しい愛の作品をたくさん描かれています。
その生々しい文体やぶっとんだ情念などに惹かれ挑んでみることにしました。

『鬼』は語り部であるわたし（おゆう）が一人の男に烈しく恋をしたけれど、裏切られ、嫉妬や憎しみから自ら鬼となって男を焼き殺し、自分も火に飛び込み死を選ぶ。
しかしいつまでも成仏出来ずにさまよっているという、なんとも報われない話です。

この世界をどう演じていこうか、あれやこれや試しているうち、ふと、もし自分が死ぬ間際に人生の記憶の一部を走馬灯のように見れるとしたら、私はどんな記憶の風景を見るのだろうかなどと思うようになりました。

おゆうが鬼の道に進むまでの短い月日は、人間としては最高潮に輝いていたのかもしれないなと思うのです。
死ぬ間際に見た風景は間違いなくこの時の強烈な記憶や感覚だと思うし、これ以上ない苦しみと共にエクスタシーのようなものをも感じていたのではないか。
一心不乱に突き進む彼女をなんだか羨ましくも思うのです。

私の強烈な記憶は何だろう？
それとも、これからいつか経験することなのだろうか？

そんなことも考えながら取り組んでいる日々です。

山口笑美

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『鬼』あらすじ

ひとりの娘が男に烈しく恋をした。
しかし男は別の女と去っていった。
娘は自ら鬼の道を選び、男と女に復讐する。
鬼となった娘は生きながら火に飛び込むが、鬼のまま永劫の闇の中をさまよい続けることになる。
瀬戸内寂聴を名乗る前の瀬戸内晴美時代の作品。

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劇団山の手事情社公演『池上show劇場【PREMIUM】』

構成・演出＝安田雅弘
日程＝2021年11月5日(金)～7日(日)
会場＝山の手事情社アトリエ

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