稽古場日誌

池上show劇場【PREMIUM】 松永 明子 2021/10/22

せめて、人間らしく?

美しい姫と、美しい青年の、美しい恋物語――
それが『天守物語』への印象だった。
あまりにも美しいと言われすぎて、実はこの作品を敬遠していた。
この作品を形づくる感性に素直に寄り添えないでいたのだ。

そこで視点を変え、いじわるに見ることにした。

まず、姫の正体は妖怪だが、物語冒頭では侍女たちや妹分に慕われる、思いやりある聖母のような姿が描かれる。かと思えば、血まみれの生首に生唾を呑むような妖怪らしい一面を覗かせ、劇中では一貫して、殿様や武家社会への批判的な態度を見せる。聖母と妖怪、慈しみと侮蔑……この極端さはなんだろうか。物語を読み進めていくと、彼女の前世は、殿様に穢されそうになったところを自害した高貴な夫人だったとわかる。つまり、妖怪の姫とは人間不信の化身なのだ。

また、青年は物分かりがよく聡いが、自分を縛る武家社会のしがらみから逃れようとしない。自分を翻弄する周囲に認められようと努力する様は健気だが、惨めにも見える。実際、彼は命ぜられた通りのことをするが、殿様の猜疑心から殺されそうになる。

どうやら、尊厳を踏みにじられた人間不信の化身が、同じく尊厳を傷つけられ命を奪われんとしている青年を愛し、守ろうとする物語らしい。

万策つき二人とも死ぬのみかとなったとき、姫は口にする。

「千歳百歳にただ一度、たった一度の恋だのに」

姫は妖怪などではなく、人間になりたかったのかもしれない。
誰かを愛し、尊厳を認めてもらえる人間に。
それはまた、青年にとっても同じだったのかもしれない。

「人間らしく生きるとは?」
コロナ禍、生き方を問い直さざるを得なかった時代に、泉鏡花の眼差しがささる。

松永明子

**********

『天守物語』あらすじ

封建時代、姫路城の天守に棲む富姫は、おろかな人間たちを見下ろしながら暮らしている。
ある晩、自らが失った鷹を探しに、鷹匠の青年図書之助が天守へ上がってくる。
姫は図書之助に惹かれ、天守へ来た証拠に武田家秘蔵の兜を授ける。が、図書之助は兜を盗んだと疑われ、窮地に立たされる。
幻想文学の先駆者泉鏡花による夢幻戯曲。

**********

劇団 山の手事情社 公演『池上show劇場【PREMIUM】』

構成・演出=安田雅弘
日程=2021年11月5日(金)~7日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

【PREMIUM】公演情報詳細は こちら をご覧ください。
【DELUXE】【PREMIUM】は 配信 でもご覧いただけます。

『池上show劇場【PREMIUM】』1 『池上show劇場【PREMIUM】』2

稽古場日誌一覧へ