稽古場日誌

ほんのりレモン風味 喜多 京香 2022/01/21

おばあちゃんのおにぎり

「青春」って、よく聞く言葉ですが、何だろうそれは。
甘酸っぱい恋のことかな?
仲間と苦楽を共にしたあの日々のことかな?
でも、私の青春はこれだ! というものが特に思いつかない……。

そんなことを何となく考えながら、つい最近2年ぶりに実家の宮崎に帰省しました。
知り合いが急に歳をとっていたり、友人が結婚して子供を産んでいたりとか、町並みが変わっていたりはするもののやっぱり実家は実家で、安心感がありました。
毎度のことながら、あっという間に東京に戻る日になり、おばあちゃんに最後の挨拶をしに行くと、おばあちゃんが私に何かの包みを渡してきました。
「飛行機で食べてね」とだけ言われ、中身のことは何も話しませんでした。

やがて飛行機の座席に座り、離陸してすっかり空の上に来ました。あとは東京に着いてまた元の日常が始まるだけ。
ちょっと憂鬱にそんなことを思いながら、おばちゃんからもらった包みを開けました。
その瞬間、涙が止まらなくなりました。
はっきり、くっきり、おばあちゃんの匂いがするのです。
そして包みの中から笹の葉が顔を出しました。
そうだ。おばあちゃんはいつも、食べ物を人に持たせる時、笹の葉で包む。そこから絶対におにぎりだと解りました。
笹の葉を開けてさらに、はっとなりました。
そうそう、おばあちゃんのおにぎりは、三角ではない、俵型だった。なんて懐かしいんだ。
そして確かにおばあちゃんにしか出せない塩加減と柔らかさと、言葉では言い表せない、ほんのりとおばあちゃんちの香り。
飛行機の中ですでに心はもう東京、そんな中おばあちゃんはグッと私を宮崎に引き戻しました。

ずるい……!!

なんて危険なおにぎりなのだ。
今すぐ飛行機から飛び降り、宮崎に帰ってしまいたいと思いました。
そのおにぎりを噛みしめれば噛みしめるほど、すっかり身体に懐かしさが沁み渡り、気がつくと私は、宮崎での小中高時代の何気ない日常から熱狂的な日々までを果てしなくたどっていました。
なるほど思い出して初めて「青春」なのだ。
あれは「青春」であったのだ。

ニュージェネレーションの彼らも、いつかレモンの香りで思い出すのだろうか、苦楽の日々を。
長い人生のほんの一部であるこの日々を、全うして欲しい。

喜多京香

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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