稽古場日誌

ほんのりレモン風味 山口 笑美 2022/01/26

祖父のこと 祖母のこと

私は祖父が大好きだった。
祖母は仕事をしていたので、鹿児島に遊びに行ったときは祖父がいつも面倒を見てくれた。
革ジャン姿もカッコよく、エネルギッシュにどこへでも連れ出してくれた。
鯉のつかみ取りや、真夜中の虫採り……。
車酔いで私が吐いて車内を何度も汚したけど一度も怒らなかった。
焼酎が大好きで、酔っぱらうと入れ歯を外して本気で追いかけてきて、私を号泣させたこともあった。
話している鹿児島弁はいまいち分からなかったけど、楽しい思い出ばかりだ。

その後祖父は病気で倒れ60代の若さで亡くなった。
お見舞いに行ったとき、パーキンソン病なんて知らなかった子供の私は、表情や動きが硬直して呂律も回らなくなった祖父の見違えた姿が怖くて、最後までまともに話もしないまま帰ってきた。
とても後悔している。

いつもふとした時におじいちゃんに会いたいなぁと思っていた。

数年前、久しぶりに上京した祖母を観光に連れて行こうと、はとバスツアーに参加したときのこと。
舟で墨田川を渡った。
両国を通った時、国技館が見えた。
祖父は相撲が大好きだったらしく、昔一人で国技館まで行ったことがあったようだった。

そのとき離れていく国技館を見ながら祖母が
「おじいちゃん こんなとこまで来たのけ〜」
と小さくポツリ。
私はハッとしてしまった。

いつも陽気な祖母はサービス精神旺盛で、話すときは必ず相手を楽しませようと大きな声で話す人だったので、隣にいた私にはその声は初めて聞く祖母の声だった。

その瞬間思わず、祖父と祖母二人が一緒に過ごした長い時を感じた。
私の知らない若かった頃の二人の甘酸っぱい時も。
祖母の隣には確かに若く元気な祖父もいて、私は嬉しいやらなにやら涙が溢れてきた。
私は自分の知らない二人の姿まで思い出のように懐かしく感じたのは初めてだった。

演劇は亡くなった人の魂をこの世に出現させる力もあると言うし、私もそれを信じているけれども、祖母のような声は出せたことがない。
まだまだ私には長い道のりのようだ。

今回のニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』というタイトルから、
青春かぁ、甘酸っぱさかぁ 
なんて考えていてつらつら思い出してしまった。
きっと本番ではもっとたくさんの忘れていた記憶や感情を呼び起こされるのだろうなぁ。

山口笑美

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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