稽古場日誌

ほんのりレモン風味 中川 佐織 2022/02/09

走ってみたら時は過ぎる

青春……を思い出せー! と踏ん張って考えてみると、だいたい走っている。か、自転車に乗っていたような気がする。
よく小劇場芝居や青春映画で走る演出があるが、まさにその通りだと思う。

親と喧嘩をして家出をした時、思春期のどこからともなく来る不安に苛まれた時、告白して振られた時、親友と自転車で二人乗りをした時、いい作品に出会って興奮した時、山の手事情社の研修生になろうと思い、親に黙ってオーディションを受けて、そのことを打ち明けた後に。
振り返ると、節目節目で走っている。
自転車で走りだす時は、とっても危険だ。転ぶか、事故に遭いかける。
思春期の不安に苛まれ、海まで自転車を漕いだ夜。海辺の駐車場のチェーンに引っかかって一回転したものだ。
親友と自転車で二人乗りをした時は、後ろに乗る親友を振り落としたこともある。
告白をするため「これだ!」という公衆電話を探しまわったあげく振られたときは、自転車を立ち漕ぎして爆走。足を踏みはずし股を打ちつけた。
衝動のままに走りだす。
それが、私の青春だ。

そして、追いかける青春もある。
当時付き合っていた恋人と、終電間際で喧嘩をした。置いていかれ、お金も無いからタクシーなんて無理。電車もない。走るしかないのだ。追いかけた。
走って40分の距離を、泣きながら。走らなくてもいいのかもしれないけど、走らないと気が済まないのだろう。結果、追いついたが別れた。
いい作品に出会ったときもそうだ。興奮が冷めない、走っていなくても心臓が高鳴り、身体が心臓に合わせて足を早め、心拍数を追いかけるように走った。なんの作品だったのか思い出せないけど。
音楽をしていたころも、演劇を始めたことも、憧れを追いかけたからだ。
今でも走りだす時はあるけど、時間に追われていたり、体のためだったり、気分転換だったりと、どこかに理由がある。制限もしている。
青春の時は、走る理由もなければ結果も無い。
ただ、身体の中にいつまでも走っていられる高揚感か、いつまでも走っていないとどうしようもない悲しみに満ちている。

ニュージェネレーションの『ほんのりレモン風味』。私は走って喉の焼ける血の味風味が青春だったと思い込んでいるけど、初めての家出は5歳の頃。歩いていける公園までゆっくりちょこちょこ走った。勇気を振り絞って一人で行った公園。血の味もしなければ、走りもせず、ブランコに乗って、母を待った。
どんな味だったか?
観たら思い出すかもしれない期待でワクワクする。走り出しちゃうかもな。

中川佐織

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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