稽古場日誌

『ほんのりレモン風味』とは青春を象徴しているという話である。
青春とは何か。僕は人生において何かを「知る」事だと思う。
ここでいう「知る」とは知識をインプットするという事ではなくて、何かしらの感情を伴う人生経験を経て何かを実感をする事である。例えば恋をする事で他人を好きになる事を「知る」、誰かに怒られる事で人に怒鳴られる恐怖を「知る」、家族が亡くなり離別の悲しみを「知る」。
「知る」事で似た様な状況に直面した時にどうすればいいか、どうしたいのかが朧げに見えてくる。人として成長する。
青春とは人が成長する上での大事な栄養なのだ。つまり『ほんのりレモン風味』を感じた時に人は何か気付かぬ内に成長しているのかもしれない。

ここで僕が強烈に『ほんのりレモン風味』を感じた話をさせて下さい。

3年ほど前だっただろうか、当時僕は声優の養成所に通っており、ひょんな事から同じクラスのある女性の恋愛相談に乗っていた。
彼女には付き合っている男がいたのだが、その男とは上手くいっていなかった。彼女を罵倒する、約束を破る、なのに束縛はする。そんな事が繰り返されていたのだが、彼女はその男に依存している側面もあり、別れられないのだと。彼女は涙を浮かべて何度も僕に話をする。
僕はなんとかしたいという気持ちでふと、映画に誘った。
観に行った映画は『グレイテスト・ショーマン』。ちょうど男女の恋愛にもスポットが当たった内容で、希望あふれる素敵な映画だった。その後ご飯に行き、彼女が好きだというチーズフォンデュを食べた。そして別れ際の駅。この時僕は切なくて寂しい気持ちでいっぱいになっていた。この人をこのまま帰してはいけない。あの男の所へは帰したくない。こんなに可愛い笑顔が曇る事なんて間違ってる。僕は相談に乗るうちに彼女が愛しくなってしまっていたのだ。僕は柱の側に彼女を連れて行き彼女に話をした。
「俺は彼と別れて欲しいと思ってる。好きなんだ」
と人目も憚らずに彼女へ気持ちを伝えた。驚愕の表情と共に今まで見たこともない様な可愛らしく愛おしい笑顔を浮かべて、彼女は喜んだ。僕は彼女を抱き締めたくなり僕は側に寄る。
「ここ駅だよ?」
と言われたので駅を出て、カラオケ館へ向かった。歌う訳でもなくお互いの好意を噛み締める様に見つめ合い抱き合った。またデートしようと約束を交わし、各々帰路についた。

こうして彼氏がいる女性との関係が始まった。色んな所へ行った。海、スーパー銭湯、ボウリング、ダイニングバー、スマホゲームのイベントetc……僕の引っ越しを手伝ってもらったり、彼女の家で年甲斐もなくぬいぐるみで遊んだり……一つ一つ、何でもない時間が楽しかった。しかし一向に彼氏と別れない彼女に対する苛立ちと絶望は確実に僕の心を蝕んでいく。
そしてその日は訪れた。夢の終わり。運命は無常にも12時の鐘を打つ。
僕はその日バイト終わりに彼女に電話をした。今までも彼氏と別れられないという話から口論になる事はあったがその日の僕は今までにないくらいに彼女を責め立てた。
「俺と会ってるのは気休め? なら終わりにした方がいい。正直言って君の事最初からそんなに好きじゃなかったし、いなくなればいいって思ってたよ」
嘘嘘嘘、もうやめろ、と心が叫んでも僕に溜まった寂しさは言葉のナイフでもって彼女の心を切り刻んでいく。彼女は限界を迎え、泣き出し、電話を切った。僕は焦ってLINEを送る。
0:57「さっきはごめん。また今度話がしたい」
これ程既読の2文字を欲した事は無かった。しかしLINEに変化はなかった。
ガラスの靴が砕けてしまったら奇跡は起こらない。僕は彼女との関係を感情のままに踏み砕いてしまったのだ。

2週間後にLINEが返ってきて電話で話をした。そこで別れを告げられた。彼氏とも別れたらしい。彼女に何があったのか、僕には詳しく知る事は出来なかったが、声は力強く、何かを乗り越えた人の響きがあった。僕は己の青さ、未熟さを恥じてそこでも彼女を責める様な言葉を吐いてしまったが、それすら受け止めて聞いてくれた。
「ごめんね、今までありがとう」
と彼女は言い、電話は終わった。僕の甘苦い恋も苦い後味を残して終わった。

長くなってしまったがこれが僕の『ほんのりレモン風味』な1ページである。

僕は人を愛し愛される幸せと愛する人を憎む苦しみを「知った」。だからこそ次に相思相愛になれた相手にもっと寄り添いたいと思えた。それだけじゃない。失恋した寂しさを感じて初めて家族や友人の尊さを実感出来た気がする。僕は人が好きなんだと実感出来た気がする。もっと人と関わりたいと思えたのだ。だから山の手事情社のワークショップに参加し、今劇団員としてこの日誌を書いている。
これは僕にとって確かな成長に繋がる経験だったと思う。

ニュージェネレーションの皆さんは一人一人が愛しくなる所を持ち合わせていると感じる。そんな愛しい人達が『ほんのりレモン風味』を通じて何かを「知る」瞬間に立ち会えるのはこの上ない幸せである。ニュージェネレーションのエネルギーと山の手事情社の熱さが合わさり、凄まじい『ほんのりレモン風味』が香る事になるだろう。

ニュージェネレーションの皆へ
僕に出来る事を全力でお手伝いさせて頂きます。一緒に『ほんのりレモン風味』をかましましょう!

この7人の『ほんのりレモン風味』を生でも配信でも、是非刮目して下さい!

宮﨑圭祐

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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