稽古場日誌

ワークショップ学生のための演劇サマー&ウィンタースクール 喜多 京香 2022/10/03

学生のための演劇サマースクール2022 リポート

8月22日〜24日の3日間、「学生のための演劇サマースクール」を開催しました。
メイン講師は川村 岳さんで、私、喜多は今回初めてアシスタントを務めました。
あいにくのコロナ禍での開催となりましたが、続々と個性的な学生さんが集まってくださいました。
みなさん稽古場に到着すると、初対面にもかかわらずワークショップが始まる前からお互いに話しかけ、既に場が和んだ状態で開始しました。

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この3日間は、柔軟運動、筋トレ、発声練習などの基礎訓練から始まり、とにかくいろいろな種類の《フリーエチュード》やシーン作りなどの、演劇トレーニングに取り組みます。
早速みなさんが頭を抱えたのは《平行》・《二拍子》。
脱力した状態から一気に喜怒哀楽のポーズをとる、という身体訓練の一つです。
どうしたらいいんだ……。
思うように動けない! 
そんな心の声が飛び交う空間の中、思わぬところで個性は垣間見えるものです。講師やアシスタントにとってそれは猛烈に嬉しい瞬間。
もっと君を見せてくれ。もっと暴れてくれ。
と常に思っているのですから。

特に印象的だったのは、最終日に行なった《メイクマシーン》。
これは山の手事情社独自の演劇トレーニングの一つで、自分に回ってきた何らかの物体を加工し、別の物体に変えて次の人に回す、というのが延々と繋がれていく即興シーンです。
その最中、首をかしげながら、なんとなく気が向かない、どうしたらいいのかイマイチわからない、といった様子で取り組んでいる学生さんがいました。
そこで講師の川村さんが、
「もっとこう、こうやってやるんだよ。」
と身体を使ってやってみせると、その子はキラキラした目で、
「面白くしていいんですか?」
と質問してきました。
「もちろんです! むしろ、面白くしてください!」
という川村さんの言葉を聞くなり、ぴょんぴょん飛び跳ねて「よぉし。」と準備態勢を取り始めました。
私は驚きました。なぜならその人はそれまでおとなしい印象だったのですが、「面白く」というキーワードを聞いただけで突然身体が喜び始めたからです。

そうか。皆、戸惑う時はいつも正解を探して縛られているのか。と私は思いました。
演劇とは、ゼロから“1”を立ち上げるもの。その人がその場で持ち合わせている全力は、正解だろうと不正解だろうと、何だろうと必ず”1”になるのです。
また、別の学生さんが言いました。
「全力でやるってどういうことですか?」
とてもいい質問だと思いました。
「それは、決してヤケクソに暴れることではない、とにかく与えられた空間に奉仕することだと思うよ」
そう言うと、彼は少し顔つきが変わり、自分の中を探るように取り組む姿が多く見られるようになりました。

講師やアシスタントの言葉に新鮮味を感じ、新しい感覚でいろいろなことにトライしてもらえたのなら幸いです。
3日間というのは長いようで短いですが、限られた中で大変貪欲に、元気に取り組んでくれました。そして集まったメンバーだったからこそ立ち上がった空間もたくさんありました。

演劇は続けたいが、なかなか場所がない。
私は演劇をやり続けてもいいのだろうか。
みなさん、いろいろな葛藤をかかえていたのが印象的ですが、そんな中このワークショップを選び、足を運んでくれたことを嬉しく思います。
サマースクールを終えた学生さん達は稽古場を出たあとも、目の前の信号は青なのになかなか渡らず、まだこのメンバーと一緒にいたい、といった様子で、いつまでも余韻に浸っていました。

喜多京香

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