稽古場日誌

馬込文士村 空想演劇祭 越谷 真美 2022/11/24

勝手に書いて行く私2 ~封印した故郷でのこと~

『馬込文士村 空想演劇祭2022』で上映予定の『千代と青児』は、宇野千代原作の小説「その家」をモチーフにして、宇野千代と画家の東郷青児との出会いと恋愛を描いた短編作品です。

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宇野千代は、1897(明治30)年、現在の山口県岩国市生まれ。
2歳で生母を亡くして、父親は彼女が3歳のときわずか15歳の娘と再婚します。

この父親・俊次が強烈でした。

実家は裕福だったものの、彼は仕事せず博打好きで酒乱。
家に入ってすぐ見える「時計の間」といわれる部屋にいつも鎮座して酒を飲み、千代は酒を買いに行かされるわ、酔いつぶれるまで歌ったり体操をさせられるわ、手足を兎のように縛られ天井から逆さに吊るされるわ、半殺しの目に遭っていたそうです。

しかし、彼は癌を患い千代が15歳のとき亡くなります。

亡くなる直前、千代は雪のなか包丁を持って往来に飛び出し、寝巻に自らの汚物をつけながら、「近寄ると殺すぞ!」と周囲に叫ぶ父親の姿を目にします。
また、15歳で父親の言いつけで最初の結婚もします。相手は生母の妹の息子、つまり従兄弟でしたが、千代は生活が肌に合わず実家に逃亡します。わずか10日間の結婚でした。

継母は、俊次の暴力の盾になってくれる千代を特別扱いし、生涯彼女の生き方に口を出すことはありませんでした。千代は父亡き後、宇野家の大黒柱であり続けました。

10代の終わりから千代は小説を書き出します。
初期の頃はこの父親や家族のことが多く描かれていたそうです。「底意地の悪い卑しい、なんとか這い上がろうとするものを徹底的に奈落に引きずり込むような」作風で父を理解することが、千代の小説家としての出発点でした。

作家になるべくしてなったような生い立ちです。

しかし晩年、宇野千代全集をつくるにあたって千代はこの頃の作品を意図的に外したのでした。

『生きて行く私』の中で、「バルザックかドストエフスキーの小説の中にしか出て来ないような狂人だった」父親に対して、「嫌悪の感情など、抱くことはなかった」と書いています。

果たして、少女時代の千代は、本当に、嫌悪を抱かずにいられたかしら?

つづく

※文章はあくまで個人としての意見です

越谷真美

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OTA アート・プロジェクト
馬込文士村 空想演劇祭2022 作品上映&[同時収録]生ライブ

日時=2022年12月17日(土) 11:00開演/15:00開演
会場=大田文化の森 多目的室

【チケット購入】
https://yyk1.ka-ruku.com/ota-s/showList

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