稽古場日誌

馬込文士村 空想演劇祭 越谷 真美 2022/12/05

勝手に書いて行く私6 ~尾﨑士郎その2~

『馬込文士村 空想演劇祭2022』で上映予定の『千代と青児』は、宇野千代原作の小説「その家」をモチーフにして、宇野千代と画家の東郷青児との出会いと恋愛を描いた短編作品です。

・・・・・・・・・・

上の写真。
尾﨑士郎と暮らしていた頃の千代と、別れた頃の千代。
同じ人物と思えなくないですか?

若い頃の宇野千代はその時期によって別人のように容貌が変わります。
生涯子供は持たなかった千代ですが、付き合った男性を我が子のように世話して尽くすような愛し方をするひとだと思います。

さて、尾﨑士郎との生活。

社交的なふたりは馬込文士村の中心的な存在になっていきます。
しかも、尾﨑の母親や自身の弟妹とも同居していたので親戚付き合い・近所付き合いも大忙し。
尾﨑と暮らす千代は相変わらず、作家であり、主婦であり、妻であり、献身的で多忙な毎日を送っていました。

しかし、千代の離婚が成立し、尾﨑の仕事も安定してくるとふたりの関係は変化していきました。

仕事をしにふたりは伊豆・湯ヶ島に出かけたりしますが、千代だけ残って別々に過ごすことが多くなっていきます。
梶井基次郎などとの関係も問い沙汰され、馬込文士村の仲間内で千代は孤立していきます。

でも、こういうときって片方だけの問題じゃなくて、尾﨑は尾﨑で、

「関係にはすっかりカビが生え、私たちは、それぞれの独自の運命を疑う自由すらも奪われかけている」

と著作に書いちゃってます。

何がそんなに関係をカビつかせたのでしょうか。

1928(昭和3)年正月に尾﨑は馬込の家を出ます。
そして翌年には当時17歳の女給古賀清子と同棲を始めます。

一方、千代は尾﨑と別れる気はありませんでした。
しかし、大森の蟹料理屋に呼ばれて久しぶりに顔を合わせたとき尾﨑の横には新しい妻が。
千代はすべて悟らされました。

知り合ってから6年でたどり着いたこの結末。

なぜ夫と離れて湯ヶ島に行っていたのでしょうか?

書くために生活から離れることが必要だったというのもあるでしょうが、夫婦にとって子供ができなかったことも何か関係に影響があったんじゃないか……
千代がもしそれをすごく意識していたとしたら、自分よりはるかに若い女が好きな男の隣にいて、それを見せつけられるってなかなか苛酷ですね……

尾﨑と別れたあとの千代は、ひたすら書いて仕事して、睡眠薬入りの酒を考案して飲み、次々と行きずりの関係で孤独を紛らわしたそうです。
一方なかなか離婚にも踏み切れませんでした。

そんな「軟体動物のような」毎日を送っていた頃、出会ったのがあの東郷青児でした。

彼は千代に負けず劣らず激しい恋愛遍歴のある人物。

『千代と青児』につづく

※文章はあくまで個人としての意見です。

・・・・・・・・・・

ここまででもうかなりお腹いっぱいの人生なんですが、このあと東郷青児、北原武夫と、それぞれまた違った濃い〜〜恋愛と別れを経験していきます。

宇野千代。
好き嫌いは別にして、ほんとにタフ!

しかし、世間にみせる顔と心の奥の顔はほんとは真逆だったような気がして、自分自身を必死に鼓舞し生ききった足跡に深い人間味を感じました。

人間って面白いです。

『馬込文士村 空想演劇祭2022』ぜひご覧ください!

越谷真美

**********

馬込202212_A4_Omote_fin_ol 馬込202212_A4_Ura_fin_ol

OTA アート・プロジェクト
馬込文士村 空想演劇祭2022 作品上映&[同時収録]生ライブ

日時=2022年12月17日(土) 11:00開演/15:00開演
会場=大田文化の森 多目的室

【チケット購入】
https://yyk1.ka-ruku.com/ota-s/showList

稽古場日誌一覧へ