稽古場日誌

ワークショップ外部活動 高島 領也 2023/01/23

岡山県・大田区ワークショップ リポート

私たち山の手事情社は、小中学校へお邪魔し、俳優の訓練方法を児童生徒の皆さんに体験してもらいながら演劇を鑑賞するワークショップを行なっております。
今回は10月から12月にかけて東京都の大田区の小学校と岡山県の小中学校へ伺いました。
東京都大田区の中萩中小学校と、岡山県の仁美小学校、笹岡小学校、城南小学校、石相小学校と軽部小学校の合同開催、磐梨小学校、豊田小学校、御北小学校、八浜中学校の計9校の小中学校にお邪魔しました。

ワークショップの始めは身体の隅々まで手で叩いて、朝のまだ起きてない身体や給食の後で眠くなった身体を起こした後に、手指と腕足を使った左右非対称の動きで頭と身体の体操をします。
その後、様々な歩き方をする《歩行》と感情を伴ったポーズを取る《平行》《二拍子》にも挑戦して頂きました。
私たち俳優が手本を見せた後に、講師の安田が「これをやってみたい人は舞台に上がってきてください」と声をかけます。
学校によって子どもたちの反応は全然違います。
次々に児童が舞台上にやってきてほぼ全員が体験してくれた小学校もあれば、反対にみんなが恥ずかしがる中、勇気を持って舞台上に上がってきた子に拍手が起こる学校もありました。

《スローモーション歩行》では右の手足が同時に前に出てしまったり足元ばかり見て歩いてしまったりと、中々上手くできない。
普段自分がどのように歩いているかなんていちいち考えないでしょうから、上手くできなくて当たり前ですが、講師の安田は「上手くできていなくても自分の身体に集中している姿は美しい」と解説しました。
なるほど、歩き方や立ち方を意識すると、それと同時に人に見られる意識が高まって自然と美しく、カッコよくなるのかもしれない。
確かに子どもたちが集中している姿はカッコよく、先生方もその変化に驚いている様子でした。

ワークショップの最後には、俳優の発声訓練を紹介した後に、児童生徒の皆さんと実際に発声しました。《ア切り》という「ア・ア・ア・ア」と声を出す訓練です。「マスクをつけたまま、俳優のお兄さんお姉さんと一緒に大きな声を出してみましょう」と安田が声をかけるや否や、「アーーーー!」と物凄い勢いで声が体育館に響き、次第に「ア・ア・ア・ア」と揃って力強くなりました。
大人から「大きな声を出してみましょう」なんてここ数年間言われていなかったのでしょう。これまで抑えてきた、大きな声を出したい衝動がぶちまけられたようです。コロナ禍での演劇体験には声に限らず、身体も感情も解放したい欲を発散させる力があるのだと感じました。

俳優が普段しているトレーニングを体験してもらった後は、お芝居の『走れメロス』を観ていただきます。昨年の8月19・20日に大田区民プラザで山の手事情社が上演した『こくごのじかん』の中の作品です。

太宰治の『走れメロス』は、中学校の教科書に載ったりする親しみの深い作品ではありますが、小学校の児童には内容が難しいのかも知れないと私たちは心配しておりました。
各学校の先生方もそれが心配だったようですが、上演が始まってみると児童の皆さんは食い入る様に作品に集中してくれました。
舞台セットは学校の教室で使う椅子がひとつだけですが、王城の中になったり、村の結婚式場になったり、荒れ狂う濁流が現れたりと、子どもたちの想像力を借りることで、体育館の中を色々な場所に変えることができました。

作品を見終わった後にある学校の先生から「普段落ち着かない子もじっと集中して見てくれて驚きました。大人が本気でする事は、子どもにもしっかりわかるものなんですね」と感想をいただき、子どもたちに作品を観てもらえる喜びを噛み締めました。

今後もこの事業で、子どもたちが演劇と出会うきっかけに私たちがなれればと思います。

高島領也

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