稽古場日誌

馬込文士村 空想演劇祭 安田 雅弘 2023/01/30

《四畳半》 と 『千代と青児』

今年度の 『馬込文士村 空想演劇祭2022』 。
山の手事情社の作品は 『千代と青児』 です。

昭和5年から始まる 作家・宇野千代 と 画家・東郷青児 のやや奇妙な同棲生活を描いたものです。
原作は宇野千代の 『その家』 という小説。
これを山の手事情社の演技演出様式 《四畳半》 で上演しました。(※ 実際にはリアリズムとの併用です。)

《四畳半》 は舞台上だけで成立するもので、映像には向いていない、と勝手に思ってきました。今でも漠然とそう考えています。
それを今回 《四畳半》 で映像にしたのは、信頼できる撮影スタッフに恵まれたからです。だからと言って彼らが 《四畳半》 の魅力をあますことなく映像にできたのかどうか、私にはまだわかりません。もちろん精一杯やっていただいたと思っています。
けれども初めてのことで、比較対象がないのです。

今回同時に配信される昨年度の 『おたふく』(原作:山本周五郎) の時もそうだったのですが、あえてどう撮っていいのか予想がつかない芝居を作って 「撮れるものなら撮ってみろ!」 という気持ちで撮影スタッフに丸投げしました。
こちらから演劇祭の撮影をお願いしておきながら本当に失礼だなとも思いつつ、信頼できればこそ逆に簡単には撮れないような舞台にしてみたのです。おそらくその方が配信をご覧になる方にも刺激的だろうと考えました。

《四畳半》 という演技の特徴は映像をみていただければわかるのですが、

■ 俳優はまっすぐ立たない。
■ セリフを話す時と聞く時には身体を止める。

というもので、作品に応じてさらにルールが加わります。
ただ 「違和感のある身体」 ということを大切にしています。 「飽きない身体」 と言い直してもいいかもしれません。

私たちが 《四畳半》 というものに取り組む理由をざっくりとお話ししたいと思います。
あくまでもざっくりと、です。そのつもりで読み飛ばしていただいて結構です。

多分にこれは私(安田)個人の感じ方の問題かもしれません。私にはいわゆる 「リアリズムの身体」 というものが退屈に見えてしまうのです。決してリアリズムを馬鹿にしているわけではありません。しかし身体だけを見た時には退屈に思えます。すぐれたリアリズムの演技が成立するのは、脚本が優れている場合です。面白い台本があって、そこで設定されているさまざまな状況に追い込まれた登場人物を表現する上でリアリズムはとても有効だと思います。演技力が生きるのです。

対極として、つまりこの議論の材料として取り上げたいのは日本の伝統芸能の 「能」 です。この 「能」 は、もちろん全てではありませんが、ストーリー的には単純で、退屈に感じてしまいかねないものが多いと思います。そもそもストーリーとして盛り上げようという意図はないのでしょう。おそらく 「鎮魂の詩」 としての狙いの方が大きいので、物語自体は退屈で構わないという部分もあったのだと思います。ただ 「能」 を作り上げていった方々は、このシンプルな筋立てをどうやったら見ごたえのあるものにできるか、ということに傾注したはずです。そしてそのためには 「飽きない身体」 で上演するのがいいのではないか、という考え方に沿って様式を洗練していったのではないかと、私は推測しています。

俳優として舞台にどう立つのか? どのような形式に沿って演技するのか? というのは永遠の課題です。楽しみでもあり苦しみでもあります。私も俳優をやっていたので、何が正解なのかわからず大変困りました。
演出家になってからも、俳優さんにどのように動いてもらうのか、どう動くのが面白いのか、一緒に苦悩して今日に至っています。
山の手事情社で出した一つ結論が 《四畳半》 なのです。この違和感のある身体を使って、さまざまな戯曲に挑んでみようと思い立って、25年近い月日が流れました。むろん完成したとは言えず、 『千代と青児』 もその一環ととらえています。

ようやく配信が始まりました。ふだんのお芝居より安い料金設定になっています。

まず、今年度と昨年度の予告編をご覧ください。

今年度

昨年度

もっと見たいと思われたら、躊躇せずにご覧になっていただけると、うれしいです。

安田雅弘

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OTA アート・プロジェクト『馬込文士村 空想演劇祭2022』

■視聴券
2022年度制作(2作品セット) 1,000円(税込)※劇団 山の手事情社『千代と青児』含む
2021年度制作(4作品セット) 1,500円(税込)※劇団 山の手事情社『おたふく』含む

■視聴券販売期間
2022年12月15日(木)~2023年2月14日(火)23:59

■購入・視聴サイト
Confetti Streaming Theater(カンフェティ・ストリーミング・シアター)

詳細情報や予告編の視聴は、特設ページ をご覧ください。

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