稽古場日誌

デカメロン・デッラ・コロナ 喜多 京香 2023/02/19

亡くなった祖父

『デカメロン・デッラ・コロナ』の創作に取り組みながら、ふと思い出したことがある。

3年前、私の祖父は新型コロナウィルス大流行の真っ只中に、この世を去った。
その当時は、県をまたぐことなど許されないような状況で、葬式に行くことができなかった。
17年間も一緒に暮らした祖父の葬式に行けないというのは、考えられないことだ。
次、帰省した時には祖父は仏壇の写真になっているだろう。
「いない」というのがどうしても信じられず、悪い夢でも見ているのだろうかと思った。

祖父は、秋川雅史さんの「千の風になって」が大変好きだった。
「これを聞くと死ぬのが怖くなくなる。じいちゃんが死んでも、千の風になっただけだからお墓の前で泣かんでね」
昔そう言われたのを覚えている。そして私も、祖父がいつか亡くなる、自分もいつか死ぬ、ということが怖くなくなった。
しかし祖父の亡くなり方はそんな潔いものではなかった。
コロナ禍により病院で誰とも面会できず、「寂しい」と言いながら亡くなったのだ。
いつも私たちを笑わせてくれたあの明るい祖父が、人生の終わりに「寂しい」と言ったのだ。
こんなはずじゃなかった。
千の風になんて、なれたのだろうか。

話は変わって先日、従姉妹の結婚式があった。その披露宴の最中のことである。
ありがたいことに、亡くなった祖父の席も用意されていた。
まるで本当に祖父がいるかのように、お酒や食べ物は入れ替えられる。
その時、父が冗談混じりにこう言った。
「もし、その辺にハエがとまっても、叩かないでね。それはきっとおじいちゃんだから」
みんなほっこり笑いながら、「そうだね」と言って食事を続けた。
するとその数分後、本当にハエが飛んできたのである。
私はその時、おじいちゃんは千の風になったのだと思った。
「こんなはずじゃなかった」という暗い気持ちが、ハエによって晴れてしまったのである。

思い描いていたものとは違うことになった。そんなことは人生の中で山ほどある。
けれども、うつむくな。
そう言っているかのように上の方で飛び回り、祖父は窓の外に消えていった。

喜多京香

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劇団 山の手事情社 公演『デカメロン・デッラ・コロナ』
日程=2023年3月24日(金)~26日(日)
会場=池上会館 集会室

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