稽古場日誌

かもめ ルーマニアツアー 高島 領也 2023/07/17

初めての空気感

ニコラエ・バルチェスク通りはシビウ国際演劇祭の拠点の一つ。
買い物や外食の際には必ずこの通りのお世話になった。
スーパーや本屋、お土産屋など、滞在中は大体ここで事が足りる。石畳が敷かれており、アイスクリームやポップコーン、お土産の出店が並んでいる。飲食店はイベントテントを建てて外で飲食できるようになっていた。集合時間まで余裕があるから、観光がてらこの通りを見てみる。

石畳の道の途中、人だかりの中で太鼓が1人と金管楽器が5人のバンドが演奏をしている。
周りの人々はスマートフォンでその演奏を撮影している。僕はこういう演奏が実は好きで、つい立ち止まってしまう。

うーん、ハイスピードな曲で勢いがあっていいですねぇ。
しかしトランペット二人が全く揃っていない。曲のテーマに入るときは揃うけど、そこ以外は自信なさげに聞こえる。まるで歌詞をうろ覚えのカラオケみたいな。
唾が溜まってうまく吹けないんだよなぁと言わんばかりに、トランペットの片方が楽器を縦に振っている。練習では上手くできていたのだろうが、緊張していたのかしら。
演奏が終わると拍手が演奏者たちを包んだ。僕も祭りの雰囲気に飲まれてか、ガラにもなく「フォーーー!!」と歓声を送った。
浮かれていたのかもしれない。

このバルチェスク通りではこのように路上でのパフォーマンスがいつでも行われている。
路上で子どもにフェイスペイントをするお姉さんたちや、巨大なドードー(鳥)にまたがる2人の探検家、ほかにも楽器隊がダンスとともに通りを練り歩いていた。
通りの奥に進むと大きな広場があった。Google Mapsには英語で「Large square」と書いてある。そのまんまかよ。そこでももちろんパフォーマンスが繰り広げられていた。
広場一面にキャンドルが敷かれていて、おそらく夜に何らかのパフォーマンスがあるのだろう。

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広場の入り口に、全身真っ白なチャップリンのような格好の男が微動だにせず箱の上に立っていた。

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これはネットの動画などでよく見る銅像のように動かないヤツだな。どれぐらい止まっているか見てやろう。

すんげー止まってる。こんなあっついのによくやるよ。

そこへ1人の子供がチップ箱にお金を入れた。すると、チャップリンはようやく動き出した。現金な奴だ。右手でポケットからお菓子を出して左手に移し、「どーっちだ?」と少年に問いかける。案の定、左手を指さした少年は間違えたがお菓子をもらえた。
少年は再びチップ箱へお金を入れた。チャップリンは動き出し再び、「どーっちだ?」をやるのだった。少年はさっきの正解の右手を指さした。今度は正解してしまった。

同じ技かよ、いや2回目だから変えて来いよ。金額で技が決まっているのだろうか、現金な奴だ。

今度はヤンチャな中学生くらいの少年たちが、チップ箱にお金を入れずにちょっかいをかけてきた。白いチャップリンは普通に怒って追っ払った。

いや、もうちょっとなんかあるでしょ。金を払わない相手にそれなりの対応がさ。なんて現金な奴だ。

この広場には市役所があり、博物館やギャラリー、教会など文化的な建物も多い。我々が『かもめ』を上演したゴングシアターもこの広場のすぐ近くの住宅街にある。市民にとって重要な場であることが伺える。

平日だというのに家族連れが多い。演劇祭がそれだけ市民に愛されていることがよくわかる。
演劇が市民の生活の中にあることがひしひしと伝わってくる。

確かに、日本ではこの空気感を感じることはできないだろう。
大学から演劇を初めて10年という節目に海外の演劇の空気に触れられて、貴重な経験となった。

高島領也

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7/9に帰国後の生配信を行ないました。アーカイブをご覧いただけます。

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