稽古場日誌

かもめ ルーマニアツアー 中川 佐織 2023/07/21

今は日常生活に戻ってます

シビウ、ティミショアラの公演を終えて帰国しました。劇団や個人のSNSで、いつも様子をみて応援のコメントなどもしてくださった日本のお客様、ありがとうございました。

渡航前から、どちらの劇場もすべて席が埋まっていると聞いていましたが、現地に行ってみたら全然違った……だったらどうしようという不安がありましたが、杞憂に終わり、満員御礼。カーテンコールもスタンディングの拍手に包まれ、色々と肩の荷がおりてほっとしました。

公演をしたシビウ、ティミショアラの二都市は元は城下町で、何百年も前からある古い建物や城壁跡が残る都市です。歴史に誇りをもち、芸術やパフォーマンスにも愛を持って観にくる人がたくさん集まる場所です。
そして、戦争、侵略、革命などの歴史を持つ国でもあります。劇場スタッフの方たちから「互いに協力しあい、公演を成功させましょう」と言われた時、歩み寄るにはどうすればよいのか? 互いの境界を行き過ぎることの無い感覚がありました。ルーマニアでは、分かり合えるが前提ではなく、分かり合えないが前提にあるのをなんとなく感じ、私個人としては一番心に残る言葉でした。
そんな方たちの前で芝居をやれて、自分にとってもよい経験と糧になりました。

そして、初演から考えると演技方針も大分変わったのが、私が演じたニーナだったと思います。四幕の「私はかもめ」と言い、トレープレフと再会するシーンは、初演では、ホロホロと泣きながら未来に不安を抱きつつも生きる希望をもつ女性でした。しかし今回は、老女のように疲れ果てたみすぼらしい女(剥製)で登場します。
あんなに輝いていたのに、声も変わり、奇妙に動く元カノが現れたら、トレープレフも動揺しますよね。台詞も安田によって大分カットされ、切れ切れになった言葉がより狂ってしまった様子を表現します。
内側の感覚も、初演時は、ニーナは「今もツラく、未来もずっとこのままツラいかもしれないが生きていく」とある種の生きる希望を抱いてやっていました。今回は、老いを入れることで、ツラいが超えてしまった状態で、言葉がその時その時の時間や感情に連れていかれる状態になり、本人は狂っているつもりはないが狂ってしまったと、観る人からするとより痛々しい状態でやれたのではないかな? と思います。

海外の方は、作品を個人としてよりも団体としてどうやるの? と観てくれているところもありますが、終演後に舞台裏でわざわざ自分に「コングラッチレーション!」と言ってくれた方たちもいて、伝わったんだなぁ〜良かったなぁ……と嬉しかったです。

そして四年前の公演から、だいぶ進化した山の手事情社の『かもめ』。
日本の方、劇団の地元でもある池上の方にも観てもらいたかった!
また機会があることを願います。

中川佐織

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7/9に帰国後の生配信を行ないました。アーカイブをご覧いただけます。

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