稽古場日誌

稽古場 喜多 京香 2023/11/22

芸術のチカラ

私には、高校1年生の弟がいる。私より12歳も下だ。
生まれは私と同じ、宮崎県の串間市というとっても田舎の町。
ユーモアがあって、少しアンニュイな男の子である。
学校から帰ってくると某韓流アイドルグループのダンスをコピーして踊りまくる。しかもなかなかうまい。かなりポテンシャルを感じる。
「家で踊ってないで、ダンス習ったら?」
と言ってみたことがあったが、全くその気はないようだった。

その弟が昨年、ピアノを始めた。
それを私が知ったのは、親族の結婚式の時である。
司会が突然弟の名前を呼んだかと思うと、弟は立ち上がりグランドピアノの隣に立ったのだ。
「新郎新婦のお二人に、贈ります。」
弟はそう言って鍵盤に手を添える。
私の頭は混乱の渦中だった。
次の瞬間鳴り響いた音に、驚嘆した。本当に美しかった。もはや、これは誰だと思った。
不思議な感覚が私の身体をかけめぐる。「弟」だが、まだ知らない一面が無限にあるということを、ピアノが教えてくれているかのような。
それ以来、弟はたまに伴奏の動画を私に送ってくれる。社会の荒波に揉まれ、曇りがかった私の心はそれを見れば必ず晴れる。明日も頑張ろう。そう思える。
人の創造は、人を救うのだ。

私も創造を続けたい。これまでたくさんの人に助けてもらって、今生きていると感じる。
私は演劇のチカラを借りて、そして返していきたいと強く思う。

喜多京香

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