稽古場日誌

馬込文士村 空想演劇祭 名越 未央 2023/11/24

わたしと、あなたと、あなたの一部

こんにちは。名越未央です。
「馬込文士村 空想演劇祭2023」にて、映像作品『片腕』(原作:川端康成)に出演いたします。

日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した作家、川端康成。
彼の作品の素晴らしさは、「日本人の心の精髄を優れた感受性で表現する、その物語の巧みさ」にあると言われます。その川端の珠玉の短編と言われるのが、『片腕』です。(私は存じ上げませんでした……ごめんなさい!)

とても、奇妙なお話です。
男が、女の腕をじっと見ている。なんと美しいのだろうとうっとりしていると、女が「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」と囁いて、肩の付け根から右腕を外して男の膝の上に置いた。今にも雨が降り出しそうな靄の中、男は片腕を大事に外套の中に抱いて自分のアパートに持ち帰って一晩を過ごす……。

“ふと私には、この片腕とその母体の娘とは無限の遠さにあるかのように感じられた。この片腕は遠い母体のところまで、はたして帰りつけるのだろうか。私はこの片腕を遠い娘のところまで、はたして返しに行き着けるのだろうか。”

女の片腕を借り受けた男は、抱きしめてみたり、曲げて伸ばしていたずらしてみたり、会話をしたり、片腕と過ごす時間がとても愛おしく満足そうです……少なくとも、途中までは。
けれど目の前にある腕を身近に感じれば感じるほど、「無限の遠さ」にある、腕と、母体の娘と、自分との、三者の絶対的な隔たりに恐れおののいて、どうしようもなくなっていく様を描いているのかもしれません。

川端が住んでいた家のあたりを歩いてみました。
「馬込文士村 空想演劇祭2023」のイベント会場である大田文化の森からも、少し足をのばせば立ち寄れます。
ぎょろっとした目を不気味に光らせ、無口で人づきあいが苦手だったという川端康成が、数多くの文士たちが移り住んできて賑やかだった馬込の地に居を構えたのは、なぜだったのだろう、と考えます。
天邪鬼! 
川端にぴったりな言葉という気がします。そんな天邪鬼なノーベル賞作家の、不可解で妖艶で変態さほとばしるペシミスティックな世界観に、ぜひいちどどっぷり浸ってみてほしいと思います。

名越未央

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馬込文士村空想演劇祭2023イベントomote 馬込文士村空想演劇祭2023イベントura

馬込文士村 空想演劇祭2023 作品上映&演劇公演+[同時収録]生ライブ
日時=2023年12月9日(土)・10日(日)
会場=大田文化の森 ホール

詳細は こちら をご覧ください。

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