稽古場日誌
僕には陶芸家の兄がいる。
大学卒業と同時に人間国宝に弟子入りし、その後独立。様々な賞に選ばれて、度々東京で個展を開いている。先日その展示会に行った。
素人目ではあるけれども、兄の作品は素朴で土の暖かみが感じられる。兄の性格そのものが器に表れている様だ。備前焼はそもそも土の力を引き出す技術で、それが兄と相性が良いのだろう。
兄は誠実で謙虚で思いやりがあり、社交的。頑固なところは僕と似ているが、その他の性格はまるで正反対だ。
僕の出演する公演を観に来てくれる時は差し入れに作品を持ってきてくれる。
楽屋にそれを飾り、本番前に力をもらう。何よりもありがたい差し入れだ。
しかし今回観に行った時の作品はまた違った様子だった。
これまでの土そのものの素朴さの中に、どこか妖しさと力強さが感じられる。以前よりも色にバリエーションがある。
「備前焼って全く同じ模様はないらしいけど、こういう色や質感はどうやって狙っているの ?」
兄は「それは経験値だ」と即答した。僕は驚いた。
これまでだと、炎の具合だとか土に含まれている金属だとかの具体的な話をするのだが、それを「経験値」とまとめた。
わずかな確信を積み重ねてきたからこそ、そう言うのだろう。
俳優も同じだと思う。
表現をするにあたって、「これは使える」「これは今後も大事にすべき事だ」というわずかな確信を積み上げていく事が俳優の技術に繋がる。
自分が大事にすべきものがわかると、自分のしている事の良し悪しが分かってくる。
業種が違えど兄に差をつけられないように、今後もただただ積み上げていきたい。
高島領也