稽古場日誌

僕らはみんな逃げている 中村 光樹 2024/02/06

自律神経の乱れ

役者を始めて10年が経った。10年もやると、役者にもいろんな生き方があるのがわかってくる。

常に忙しく、役者として忙殺される人。
ある程度収入があり、仕事と趣味が半々くらいの人。
バイトや仕事に忙殺されながら役者をする人。
役者が趣味の人。

ありがたいことに、声優という職業ということもあり、私は2つ目が近く、贅沢をしなければ声の仕事だけで生きていける。
ただ私は趣味がないのでほとんどの時間を睡眠とギャンブルに費やす。
第三者から見たらもったいない人生だと言うだろう。同感だ。
売れっ子声優ではないので週に2、3日、多くて5日の仕事量だ。1日8、9時間も働くことはめったにない。早いと1時間で終わる日もある。
そんな生活を送っていると、睡眠時間が増える。趣味が多い人は、この時間を使い、さらなる仕事に繋げられるだろう。
私はただ眠り続けた。そうすると、今どこにいるのかわからなくなる。起きているのか、寝ているのか。
何か頑張らなければいけない気がする。そう思いながら眠り、起きる。携帯で時間を確認しても、今見ている携帯画面が現実のものか夢の中か、わからなくなる。時間の感覚もずれていく。もしかしたら老後というのはこういうものなのかもしれない。
そりゃボケるわけだ。

安田さんに、私がある程度収入がある生活をしていると言うと、そんな役者人生楽しくないでしょ? 役者なら常に自分を危機に追いやらないといけない。だからこそ、舞台に立った時にぶちかましてやろうとか逆転してやるぞという気持ちになるんだ、と言われた。
役者として当たり前の気持ちを忘れていたのだとこの時気が付いた。10年ですっかり麻痺してしまっていたのだ。
山の手事情社の役者は役者という職業に向き合い、いかにして面白い演技ができるかを考え、己と向き合っている。
私は自分から逃げ、演技をすることへの緊張感がなくなり、身体だけでなく役者としても寝ぼけている状態だったのだ。
今までの自分の演技がとてもしょうもないものに思えて、恥ずかしくなった。
睡眠は、趣味を見つけることからも、仕事がない現実からも逃げる手段だったのだ。

自律神経とは交感神経と副交感神経からなる神経でシーソーのようにバランスを取り合っている。交感神経とは主に、昼間に優位になる神経。血圧を高め、心身をある程度緊張させ、頭と体を活動に適した状態にする。副交感神経は、逆に夜間に優位になる神経。心身をリラックスさせ、睡眠や休息をとりやすくする状態にする。自律神経が乱れると、昼間に眠さを感じたり、だるさを感じるようになる。
私はこの1年間、準劇団員として演劇に向き合い、舞台に立つ緊張感を取り戻せただろうか。
自律神経は整えることが出来ただろうか。
睡眠に逃避せず、自分に向き合えるようになれただろうか。
10年前の自分に今の自分をみせられるだろうか……。
まだわからない。
『僕らはみんな逃げている』の公演は今の全力で、ベストを尽くそうと思う。

中村光樹

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ニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』
構成・演出=谷 洋介

日程=2024年2月28日(水)~3月3日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

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