稽古場日誌

僕らはみんな逃げている 安部 みはる 2024/02/08

山で熊に出会ったら逃げましょう

今は昔のこと。
当時お付き合いしていた男性が浮気をした。
その年はルーマニアツアー、宮城県や岡山県でのワークショップがあり全国を飛び回っていた。おまけに膝の靭帯を痛めていて病院通いも忙しかった。
スキだらけだった。

浮気が発覚した時は当然激昂し、ちょっとおかしくなった。
後で考えてもやはり精神をやられていたと思う。

浮気相手は仮にA美としよう。小柄で快活、社交性があり自分大好き。私と正反対の女性だ。発覚当日から、私はA美のインスタグラムをフォローし、フェイスブック、X(旧ツイッター)、ブログ、ストーリーもくまなく一日に4〜5回チェックしていた。
キラキラとしたリア充の投稿にメラメラと怒りを募らせた。多分、怒るために見ていたんだろう。

次第に、A美の行動パターンと行動範囲がぼんやり把握できるようになった。
今日ここにいるのか、いついつここに来るのか、など。
あそこに一日張り込んでいれば会えるな。名乗って怒鳴りつけてやったらスッキリするかな。コーヒーでもぶっかけてやろうか。いや、ペンキの方がいいか。何か硬いもの、尖ったものを持って行こうか……。

まずい。

行ってはいけない方向に走って行こうとしている。
ある日そのことにハッと気がつき、山で熊に出会った時のように相手の存在を捉えつつジリジリと後ろに下がった。そして、自分の中の狂気から全速力で逃げた。
危うく山の手事情社から犯罪者を出すところだった。あっぶねー。

逃げ込んだ先は演劇だった。
辛いこと、苦しいこと、悲しいことを表現に昇華してきた。
私は逃げ切っただろうか。

今回のニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』は、大切なことから逃げていると何も変わらないよということがテーマだろうか。
だけど、時には逃げてもいい、逃がしてくれない社会に生きているのだから、逃げ込む場所があってもいいと思う。

私は今回演出助手をつとめる。
人の心に渦巻いているものを見るのが大好物だ。
今、ニュージェネレーションたちが一体何から逃げ、何を変えようとしているのかを見届けよう。本番まで、引き出して引き出して面白い公演になるようにサポートしようと思う。

逃がさねーぞ!

安部みはる

**********

『僕らはみんな逃げている』omote 『僕らはみんな逃げている』ura 

ニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』
構成・演出=谷 洋介

日程=2024年2月28日(水)~3月3日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

稽古場日誌一覧へ