稽古場日誌

夏の夜の夢 藍葉 悠気 2024/07/06

ライトノベル

初恋は叶わないと言いますが、どうやらそれは本当の様でして、ご多分に漏れず、僕の初恋も叶うことはありませんでした。

こんにちは、2024年度から劇団員となりました藍葉悠気です。
今回は夏が来る度に思い出す、本当にあった「ライトノベル」のような僕の初恋の話について、お話させていただきます。

まず、物語の始まりは幼少期まで遡ります。

僕には所謂「幼馴染の女の子」という、物心ついた頃から一緒に遊んだり、家族ぐるみで旅行したりするような仲の良い女の子がいまして、気づいた時にはお互いに想いを寄せるようになり、小学校の時には既に両想いの仲でした。
とはいえ、もちろん当時は子どもでしたので、付き合おうなんてことにはならず、やがて彼女は親の都合で地元である九州から関東に引っ越して、離れ離れとなりました。

ここまでなら、そこそこある話だと思いますが、その後も、彼女の親の実家が九州にあり、親同士が仲が良かったこともあって、お盆やお正月で彼女が帰省してくる度に再会できるという、なんとなく遠距離恋愛のような関係が十代の時まで続きました。
ただ、その間、僕は僕で別の女の子と交際することもありましたし、彼女も他の誰かと付き合ったりしていました。
にも関わらず、不思議と再会すると、お互いに子どもの頃の初恋の時の気持ちが蘇り、恥ずかしい様な嬉しい様な感情と共に、一緒にはいられない切なさも重なって、どんどん僕の中で彼女は特別な存在になっていきました。

……だいぶライトノベルっぽくなってきました。

さて、そんな関係がしばらく続いた後、ある高校三年生の夏に、転機が訪れます。
それは僕が大学受験のために地元を離れ、東京の予備校の夏期講習に通う間、関東にある彼女の家に泊めてもらうことになった時のことです。
10年以上もの間、ひっそりと続けてきた遠距離恋愛のような関係に、ついに我慢できなくなった僕は思い切って彼女に交際を持ち掛けました。しかし、当然のように両想いだと信じていた彼女は答えを口ごもり、彼女のお父さんの許可を得なければ付き合うことはできないと言われます。
そこで気持ちが昂っていた僕は、そのままの勢いで彼女のお父さんに直談判しました。

「彼女との交際を認めてください!」

と。
真剣な眼差しで自分の想いを打ち明ける僕に対して、彼女のお父さんは険しい表情のまま、暫しの沈黙があった後、口を開きます。

「こいつ、処女じゃないよ?」

「え……???」

あまりの想定外からの角度の返答に驚きましたが、詳しく事情を聞くと、彼女が過去に付き合った他の男性との間に起こったことが原因で、お父さんは彼女の男女交際について厳しい姿勢を取るようになっていたのです。

「娘が真っ当な大人になるまで、男とは付き合わせない」

と断言する彼女のお父さんの意志は強固なものでした。
僕は絶望しました。
交際が認められないことと、彼女の身に起きたことを受け止めきれず、まさにこれが俗に言う「胸が張り裂けそう」というやつか! という感覚に蝕まれながら、思わず泊めて貰っていた彼女の家を飛び出して、深夜から明け方の海岸をふらふら歩いたりしていました。
だけど、それでも、僕は彼女のことを諦めることはできませんでした。

だから、地元に帰る日、こっそり空港まで見送りに来てくれた彼女に、涙ながらに伝えます。

「色々なことがあったけど、いつかお互い大人になって、お父さんが認めてくれるようになったら、一緒になろう!」

と。
すごくライトノベルっぽく、ライトノベルの主人公のようなテンションで伝えました。
実際ちょっとライトノベルの主人公みたいな顔になっていたと思います。

まぁ、今になってしまえば青春の若気の至りで起こした、ちょっと照れ臭い思い出として簡単に振り返れるようになりましたが、その当時は本当に心の底から真剣でしたし、彼女も泣きながら僕の言葉を受け入れてくれて、数年後に再会する約束までしたのです。
が、当然といえば当然ながら、その約束は果たされることなどなく。
距離や生き方、考え方が離れていく内に次第に連絡や交流が途絶え、やがて僕は僕、彼女は彼女の家庭を築きました。

気づけば、あの夏の日から20年の時が経ちました。
もう初恋やら青春やらに想いを馳せる年齢ではありません。
しかし、それでも毎年夏が来ると、あの時の記憶が夢であったかのように、もしくは、まさに昔読んだライトノベルの物語を思い出すかのように、不思議な感覚で思い出されるのです。

さて、という訳で。
そんな藍葉悠気が今年の夏、若手公演『夏の夜の夢』では「一夜の恋情に翻弄される愚かな男」を演じます。

「理性と愛とはこの頃あんまり仲がよくないらしい。まったく残念なことだ」

とは、彼の劇中での一言。
恋する者、恋に焼かれる者の愚かしさを、少しでも発揮できれば本懐です。
何卒ご来場いただけること、心よりお待ちしております。

藍葉悠気

※ 舞台写真:『僕らはみんな逃げている』(2024年) 

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若手公演『夏の夜の夢』
日程=2024年7月27日(土)~8月4日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

『夏の夜の夢』2024omote 夏夢チラシ 裏【完成A4】追加公演入り

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