稽古場日誌
馬込文士村演劇祭/馬込文士村 空想演劇祭 松永 明子 2024/09/18
俳優部の松永明子です。
今回の公演では『ヘンゼルとグレーテル』の演出助手として参加しています。稽古をひたすら見つめ続けるというのは研修生以来のことで、新鮮な気持ちで稽古を観察しています。
皆さんは『ヘンゼルとグレーテル』というお話をどれだけ知っていますか?
恥ずかしながら、わたしはこのお話をろくに知りませんでした。
ヘンゼルとグレーテルという男女の兄妹がいて、(どっちが兄で妹?)
森の中でお菓子で作られた家を見つけそれを食べていると、(超楽しそう!)
家の主人である魔女に怒られる……(そりゃ怒られるよねえ、追い出されるのかな?)
……くらいのことしか知らなかった。
なので「山の手事情社にしては珍しく今回は楽しい少年少女の冒険活劇になるのかな〜〜!」なんて呑気に思っていました。
と こ ろ が
実はなかなかダークなお話だったということが稽古を進めるうちわかってきたのです。
そもそもどうして子ども達だけで森にいたのか、まずはじめにツッコミたいところ。
この物語は大飢饉の最中のことで、ヘンゼルとグレーテルは口減らしのために両親に捨てられた子ども達だったのです。また、これもわたしは初めて知ったことだったのですが、2人は木こりの家の子どもだったので、それで森に捨てられたという訳です。だから子ども2人きりで森を歩いていたのですね〜〜〜。
というか、いきなりめっちゃ怖くないですか。めっちゃ悲しい話じゃないですか。
いや、めっちゃ面白いな! こんな風に感じるのは意地悪ですか。
という訳で我々の作品の冒頭はいきなりどよ〜〜〜〜〜んとしたお通夜のような木こりの家から始まることになりました。母親役を演じるのは越谷真美さん、父親役は高島領也くん。子どもを捨てる両親ってどんな悪い奴らなんだろう? と思うでしょう。どんな会話があって、どんな感情のもつれがあって夫婦は子どもを捨てるのか。はい、ここ注目ポイントなので楽しみにしていてくださいね。
ちなみに、わたしは高島くん演じるお父さんが理想を言うくせにあまりに情けないのでいつも噴き出さずにはいられません。こんな夫じゃメンタルもブレイクするというもんですわ、というやられっぷりの越谷さん。いいシーンです。
そんなこんなで森に置き去りにされた子ども達はやがてお菓子の家にたどり着き、そこの主人であるお婆さんに食べ物から寝る場所まで大変な歓迎を受けるのですが、そのお婆さんが魔女でしたという訳です。
ところでなんだって森の中にお婆さんがひとりで住んでいるのでしょう? しかも目が見えないというではないですか。
これはわたしの想像ですが、このお婆さんもヘンゼル達のように、かつては木こりの家に生まれた子どもで、もしかしたら同じように飢饉にあって口減らしのために捨てられたのかもしれません。目も不自由ですから、働くにも難儀しそうです。子どもの頃は厄介者扱いされていたかもしれない。暗い森の中でたったひとり、暮らし続けるというのはどんな気持ちだったでしょう。
めっちゃ寂しくないですか。めっちゃ悲しい存在じゃないですか。
いや、めっちゃ面白いな! こんな風に感じるのは性格がわるいですか。
という訳で我々の作品の魔女もかなり謎めいています。魔女を演じるのは山口笑美さん。舞台を面白くすることを誰より貪欲に考えている方です。とあるシーンの稽古でのこと。身体を使って動きの提案をしてくれたのですが、突然はたと動きをやめてしまい、こう言いました。
「これはダメだわ、過去の公演でこんな動きがあったもの。」
「ああ……アイディアが足りない……新鮮な身体を見つけなくちゃ……」
面白さへの執念、まさに魔女級です。勉強になります。
これも知らなかったのですが、物語の最後は妹のグレーテルが囚われた兄を救うため魔女をかまどに閉じこめてしまうそうです。その部分は文章ではこう書かれています。
「これで、まじょは おしまい」
お子さま向けの文章なので翻訳の村岡花子さんも気を使ったのでしょう。グレーテルが魔女を殺してしまった、ということをかなりオブラートに包んで書いています。しかも、魔女の家に宝石がたくさんあったので、子ども達2人はそれをポケットに詰め込んで持って帰ってしまいます。さらっと書かれていますが、やっていることが強盗殺人です。わたしは当初、このお話を少年少女の楽しい冒険活劇だと思い込んでいたので、この一連の流れと「まじょはおしまい」のフレーズにはたまげました。
という訳で我々の作品の子ども達もかなりたくましくなりそうです。兄ヘンゼルを演じるのは鍵山大和くん、妹グレーテルは喜多京香さん。信じていた両親に捨てられてしまう子ども達はどんなにいたいけだろう? と思うでしょう。独居老人を襲って盗みを働き、家計を助ける……って、うーーーんどんな子ども達なのでしょうね? そこのところも見どころのひとつになると思います。
いろいろと無茶苦茶で残酷なお話です。でもきっと、世界のどこかでは今もこんなことが起こっている気がします。というか、たぶん起こっているのでしょう。とても悲しいことだけれど。そう思うと、グリム兄弟がこのお話を童話としてまとめた事にも意味がある気がしてきます。そんなことを考えながら稽古を見つめる日々です。
皆さんの目にはこの劇がどのように映るでしょうか。
ご覧頂くのを楽しみにお待ちしています。
松永明子
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OTA アート・プロジェクト
馬込文士村演劇祭2024
~ものがたりの世界を楽しもう~
演劇上演『ガリバー旅行記』『ヘンゼルとグレーテル』
日時=2024年10月5日(土)・6日(日)
会場=山王ヒルズホール
詳細は こちら をご覧ください。