稽古場日誌

オセロー/マクベス 中川 佐織 2024/12/06

オムツと便器の思い出

来年2月の二本立て公演『オセロー』&『マクベス』。
俳優陣がほとんど出演している公演は久しぶりです。ちなみに、私は『マクベス』に出演いたします。

出演者の名前をご覧いただくとお分かりの通り、今回は女優のみの配役で、男性役の多いシェイクスピア作品を女性だけでどう演じるのか? 工夫のしどころです。

『マクベス』といえば、かれこれ10年ほど前に、大久保美智子さんの演出で内部発表をしたことがある作品でもあり、その時は、マクダフの息子役を演じました。未熟過ぎて、全然できなくて大変だったなぁ〜という思い出と共に、当時、マクベス役だった岩淵吉能さんの「トゥモロースピーチ」のことも思い出します。

有名な台詞で、「明日、また明日、また明日と……」と続き、自分の人生や人類の歩みがいずれ滅びへと向かい、どんな言葉も感情も死と同時に意味はなくなる(個人的な見解です)ということを表す台詞です。

その頃はまだ20代で、私はこの台詞は時間の概念を意味しているとも思っていて、かっこいい信念のある言葉として受け止めていたのですが、当時の岩淵さんは大分情けない装いのオムツ一丁の衣装で、舞台セットの便器に座り「ダメだこりゃぁ……」とでも言わんばかりの弱々しいトゥモロースピーチを語っていました。

表現というのは「強くかっこよい身体と響く声で!」では無いと伝わらないと思っていた私は、こういう言い方があるんだ……と、悲劇に苛まれた人間の声はこんな声なんだと、腑に落ちた記憶があります。妙なことを言うようですが、実際に聞こえている声と一緒に、別の声が聞こえる感じでしょうか? あれは一体なんだったんだろうな、と、時折考えます。

それから年を重ねながら、どんどん「なんでもいいこと」が増えてきました。20代の頃に抱いていた「絶対こうあるべき!」という潔癖さは年々と減り、「こう見せたい」から「そう見えればいいじゃん」になってきたとも言えます。と同時に、作品は見えたい。「生きた人間が見えたい」という想いと迷いは、増えてきています。

勇気は常に必要なんでしょう。

冒頭にも書きましたが、女優のみの配役というのは、戯曲に書いてある通りとは違う演出です。それでも、『マクベス』が見えるのか? やはり、工夫のしどころです。

自業自得とも言える『マクベス』の悲劇。
その悲劇を彩っていく魅力的な登場人物たち。
出演者全員にとって、本当にやりがいのある公演です。

ぜひ、楽しみにしていてください。

中川佐織

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劇団 山の手事情社 二本立て公演
『オセロー』『マクベス』
日時=2025年2月21日(金)~25日(火)
会場=シアター風姿花伝

詳細は こちら をご覧ください。

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