稽古場日誌


ただいま岡山でこの日誌を書いています。
『葵上』の稽古がどうなっているか、気になっています。
生霊を使って両方参加できたらいいのに……。
岡山でいま取り組んでいる物語の舞台は近未来なんですが、いつの世も、誰かが誰かを想い、煩い、うまくいかない物語の構図が変わりないことに驚いてしまいます。
ところで、能の「葵上」のもとになった「源氏物語」とその作者の紫式部については、最近大河ドラマで取り上げられたり、そうでなくても名前だけは聞いたことがある方が多いと思いますが、「源氏物語」は実は、世界最古の長編小説として、世界的に評価されているのをご存知でしょうか?
物語自体はもっと前からありましたが、心理描写や人間関係がこんなにリアルに深く描かれている作品はほかにありませんでした。そんな文学作品を、平安時代に貴族の娘だった紫式部がなぜ書くことができたのか、とっても興味深いですよね。
調べてみて驚いたのは、紫式部の人生。
結婚したのは26歳頃なんだとか。
10代のうちに結婚するのが一般的だった時代になかなかの晩婚です。しかし、当時の結婚は親が決めるもの。結婚費用は妻の実家持ちだったので、父親の仕事が安定していないと結婚することもままならなかったのです。
しかしようやく結婚した相手は、なんと結婚してたった2年で急逝してしまいます。喧嘩しつつも仲良し夫婦だったようで、想像するだに切ない。
紫式部は母親も、姉のように慕っていた友達も、子どもの頃に亡くす経験をしていて、人生の儚さというか、「源氏物語」についてよく言われる「もののあはれ」という無常の感覚は彼女の人生経験から滲み出て来るものだったんだろうと感じました。
夫の死後、宮中に仕えて執筆をはじめ、「源氏物語」を完成させたあと40代のうちには亡くなっています。
亡くなった夫のことを想って詠んだ和歌が残っています。
見し人の けぶりとなりし 夕べより 名ぞむつまじき 塩釜の浦
(亡き夫が煙となって消えた夕べ以来、塩釜の浦の煙さえも、名が親しく感じられる)
人生は塵のようにあっという間ですが、1000年を超えて残り続ける想いにじわじわと感動します。
『葵上』も誰かの記憶に残り続ける舞台になりますよう!
想いを込めて取り組みたいと思います。
越谷真美
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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1
詳細は こちら をご覧ください。