稽古場日誌


主宰の安田がよく「役に飛び込むんだよ!」と言っていました。
役に飛び込む、それは崖や階段から落ちる感覚に似ているのだろうと思います。
昔、階段から落ちたことがあります。
落ちた瞬間周りの景色がゆっくり流れ、
近くにいた友人の驚く顔がよく見え、
落ちていく自分の姿も見えて、
私は、
このまま行くと、顔から落ちる!
顔はやばい! 女優よ~!
あの角にはまれば大丈夫だ!
と冷静に、顔から落ちる瞬間、身体を真横にして横向きで階段の踊り場にはまるように倒れました。
全く無傷でした。
状況は違いますが、本番中もそれに似た不思議な感覚になることがあります。
海にもぐった時のようにとても静かで、時間の流れもゆっくりとなり、舞台上でセリフを言っている私を見ているもう一人の私が現れます。
もう一人の私は演技をしている私よりすこし先の未来を見ていて、とても冷静に舞台上の私を動かします。
同時に客席もよく見えて、お客様の座り方なんかも見えてしまったりして、どう感じているのかも分かるような気がします。
劇場全体が同じ海の中で一緒に漂っているような感覚です。
この感覚に出会えた後はなんとも言えない幸福感に包まれます。
ふと、これは生霊も同じ感覚なのではなかろうか? なんて思ったりもしました。
六条御息所[ろくじょうのみやすどころ]は嫉妬や恨みなどの苦悩が強くなり精神的にも肉体的にも苦しみ、生霊となり現れます。
生霊というとネガティブな感覚をイメージしますが、肉体から離れて漂っている間はもしかしたらある意味幸福感に包まれていたのではなかろうか?
なんて思ったりもしました。
役を演じることは、生霊を出していることと同じ感覚なのか?
まだまだ分からないことだらけです。
役とも自分とも共演者とも、そしてお客様とも、もっと深いところと繋がれるよう、髪をふり乱しながら残りの稽古に励みます。
劇団 山の手事情社、休止前最後の舞台に魂を込めて。
山口笑美
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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1
詳細は こちら をご覧ください。