稽古場日誌

テンペスト 越谷 真美 2014/11/30

思いこみ

子供ができ両親と同居するようになって、個人の人格形成に親の影響がどれほど大きいか考えさせられることが多い。

赤ちゃんは驚くほど環境を受け入れて親や近しい人のモノマネをしながら成長する。親にとってもまるで自分の延長にあるような一番身近な存在だ。
それが成長するにつれて自我が芽生え、その過程で親子がどう接するのか。自分の子を見ながら、自分自身をどうしてもかえりみてしまう。

物心ついてからの自分は、周りにもっと自分に関心をもってほしい、受け入れてほしい一方でそれを諦めている。
いくら出会いに恵まれ、広い世界に触れても、私は自分が自分であることに自信が持てない。

きっと両親は私という人間にがっかりしている。

そういう感情の根っこがどうやら自分の万事につながっていると思い至った。
自分のやってきたことの中途半端さ、生活にも、恋愛にも、芝居も全て、つながっている。
やっぱりダメだ。出来ることなら消えてなくなってしまいたい。
結局そうなる。

ところが最近母と口喧嘩になったとき、今までないことに気づいた。
私はふだん母になんとか文句を言わさないように必死だが、
母は、私に、「もっと優しくしてほしい」と言った。
え? 
驚いたことに、どうやら私が母に求めていたことと同じことを、母が私に求めている。
何故かその晩は眠れなくなって、母への暴言をひとり言のように吐きまくって、寝て、それから不思議と少し色々がんばろうと気力が湧いてきた。

そんな今日この頃、『テンペスト』に取り組むことになった。
ひとりの人間のアイデンティティが崩壊していくのを描くのだそうだ。
その人間の崩壊にはきっとたくさんの人間が関わっているだろう。
愛しいもの、自分を支えていた価値観が失われていく感覚。
それはかつて愛しいものと絶対的な支えがあったからこそ鋭いものになるのだろう。
今までにない作品になりそうだ。ワクワクする。
私のクソみたいな芝居も早く崩壊させたいと思う。

越谷真美

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