稽古場日誌

テンペスト 名越 未央 2014/12/01

焦る女

名越未央です。

山の手事情社に入団してもうすぐ2年になるが、私は非常にわかりにくい人間であるらしい。名越未央について、目撃者の証言をつなぎ合わせてみよう。

「(名越さんは)いつの間にか空気の様にそこにいて、薄暗い雰囲気で眉間にしわを寄せてむっつりと押し黙っている。怒っているのかと思ったら、驚くほど明るく笑い出し、不意に痛烈な毒舌を吐く。・・・中略・・・驚くほどマイペースで、焦っているのは見たことがない。何を考えているのかわからず、何も考えていないのかもしれず、どこでもない一点を見つめている目線はどこか不気味で、つかみどころがない。油断すると顔を忘れてしまいそうになるというか、まぁよく言えば多彩な印象を持つ人で、あれこの人誰だったっけ? と思ったら未央さんだった、ということもしばしば。」

ふーん、なるほどね。好意的に見ればミステリアスな魅力のある女性だが、まぁ確かに「なんなんだこの女は」と言わせてしまう残念な風貌である。よし、せっかくなので、この場を借りてひとつだけ種明かしをしてみよう。今の証言の中で、決定的に間違っていることがひとつある。

実は私はこう見えて、だいたい焦っている。

私の頭の中は、たいてい「何か言わなければ・・・!」という焦燥感の嵐が吹き荒れているのだ。会議中、稽古中、仕事中、デート中、飲み会中・・・あらゆる会話の最中に「何か言わなければ、しかし何を言えば・・・⁉︎」もしくは「私はこう思うのだが、しかしいったいどう言えば伝わるのか・・・⁉︎」逡巡し続けて黙っているうちに時がすぎさってしまう。それこそ名越未央である。

言葉を発することに、こんなにも抵抗感がある人間も珍しいのかもしれない。しかもそんな奴がよりにもよって俳優をやっているなんて。でも私は、そういう性質だからこそ俳優を志したのだと思う。思うように表現できないことが多すぎて、伝えたいのに伝えられないというジレンマが巨大化しすぎて。

今日も私は、焦燥感の嵐のまっただなか、巨大なジレンマと対峙している。考えるより喋れ、なんでもいいから喋ってしまえ、と言い聞かせながら。

名越未央

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