稽古場日誌

テンペスト 安田 雅弘 2015/01/06

島で起こっていること

なぜ「テンペスト」を上演したいと思ったのか。
私の場合だけかもしれないが、
明確な理由があって製作に入ることは、まずない。
上演したい作品の選択基準は、「予感」でしかない。

何かがひっかかる。何かありそうだ。

上演作品が決まって、稽古が始まっても、
かなりの間、その「予感」が実体化せず、
いつものことながら、作品を呪い、
稽古場にも重たい空気が流れていた。
12月も中旬になって、徐々に演技として、シーン展開として、
「あっ、そういうことだったのか」という瞬間が増えて来たように思う。

「人を赦すこと」を描いたと言われることの多いこの作品だが、
そのように読むと、この作品は退屈になってしまうのである。
「人は赦されないこと」をテーマにした作品ととらえるべきなのだ。

この牧歌的と言ってもいい、
一見平和な島の光景の裏で起こっていることが見えてこなければ、
上空から密林の島を眺めているように、
表面的な退屈さに覆われたままの舞台になってしまう。

密林の下で起こっていること、
すなわち主人公プロスペローの頭の中で生じていることを舞台化すべきなのだ。

不勉強な私は、
この作品が世界的にはどのように解釈され、
またどのような上演があったのか、
ほんの一部しかしらない。
言い訳にしたくはないが、
演劇が軽蔑されているわが国では研究にも限界があるだろう。

しかし、私の知る限りでは、
いままでとは違う作品理解に立った舞台になりつつあるのではないかと思う。
山の手事情社の作品としても、
今までより踏み込んだ印象をもっていただけるのではないか。

お芝居好きのみなさんに、
シェイクスピア好きのみなさんに、
ぜひご覧いただきたい。
劇場でお待ちしております。

安田雅弘

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