稽古場日誌

外部活動 倉品 淳子 2015/08/03

身体的にバラエティあふれる人たちによる演劇公演「BUNNA」を終えて。

「みんな違ってみんないい」という素敵な言葉がありますが、いやー・・・。違うということは大変です。はっきり言って面倒です。劇団でのフリ写しひとつとっても、何十年も一緒にやってきている俳優同志ならすぐにコピーできますが、最近入ってきたメンバーだとそうはいかない、やれ手の角度が違うだの動きのニュアンスが違うだの時間のかかることこの上ない。健常者でさえそうなのに、こんなに障がいてんこもりの俳優との作業ですからね~。稽古始める前から違うことだらけ。ヂギジョー! めんどくせーなあ! なんていう、お下品な言葉が、ついつい大音量で口から出てしまうほど。

車いすの青年が2人。股関節に障がいを持つ男子学生が1人。耳の不自由な俳優。70歳前後の女性が5人。そして健常の若い女優が1人。全10人の出演者は、身体や年齢もさることながら、活動時間が合わない。やっと仕事を終えて稽古に来た俳優がいるかと思うと、その30分後には、入浴のために帰らねばならない別の俳優がいる。時間があるが体力がないシニア軍団は毎日の長時間の稽古でふらふらしている。準備時間の大半をスケジュール調整に使い、小屋入り一週間の通し稽古では、演出家自ら代役をやることに! いったい誰が見てダメ出しするんだ? 意味あんのか? そして結局、わたくし倉品淳子、字幕のフリップを出すため出演してしまうことになる・・・(涙)

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(右端)手話通訳のボランティアのはずが出演までしてくれました。(中央)そして、力強いシニアの方々!

目の肥えた新聞記者の方が本番初日に見に来てくれた。「これはいわゆる見世物小屋だよね。なのになんで、ふつうの芝居やってるシーンが入っているの?」という批判めいたコメントをいただく。つまり作品としての一貫性に欠いているんじゃないのって言いたいのだと思う。ご意見ありがたく拝聴する! きっと私にはまだそこまで客観的にこの芝居を見れていないのかもしれない。(なんてったって、出ちゃってますからね~)反省しきりだが、私は別に寺山修二的なお芝居にしたかったわけでもなく、基本的な作業は健常者も障がい者も変わらないと思ってやっている。障がいを持った彼ら向けに特別なお芝居を作ろうとしているわけではない。どの芝居を作る時でも、結果的に彼らにしかできない表現になるというだけなのだ。

筋ジストロフィーという進行性の難病の”和樹”は、ほとんど身体が動かない。顔の表情はかなり動くが、かろうじて動く指先だけで電動車いすをあやつっている。その彼が、ある日の稽古のあとに「相手に対する角度が変わるだけで身体が変わるということを初めて知った」と言ってきた。驚いた。身体がほとんど動かないのに、そんな繊細なイメージがわかるとは正直思っていなかったのだ。この稽古を始めるころ、例えばウォームアップをするときに、「はい腰を回して」「次は肩を上下に」なんていう、普通のワークショップでやるような準備運動をやってはいけないような気がして、別のメニューを組んでいた。しかし彼らはきちんと身体の内側の感覚で微細に腰を回したり、胸を動かしたりすることができるのだ。思い返すと恥ずかしい、つまり私は彼を侮っていたのだ。

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ほかにも、この稽古場では特筆すべき様々なことがあった。聾の”れお”の繰り出す手話表現の美しさ、思春期の”えぐっちゃん”の劇的なほどの精神的な成長など、とても書ききれないが、それは、驚きと気付きに満ちたものだった。彼らは決して順風ではない彼らの人生の苦しみを見つめ、葛藤に身をよじらせ、今まで出すことを許されなかった腹立ちを大声でぶちまけた。少なくとも彼らにとって演劇は、とても必要だし、演劇によって彼らは救われた。人生の大方を演劇とともに生きてきた私にとってそれはとてつもない喜びであった。

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演劇が大好きで、ムードメーカーの”あゆきち”

そして、こんなにも熱い客席を見たのも初めてだった。ほとんどの観客の目は涙にうるんでいた。拍手は暖かく、鳴りやまない。帰っていく観客の表情は満足げに興奮していた。

ただここで「待てよ」と思わずにいられない。それは本当に彼らの表現に向けての賞賛だったのだろうか? 障がいのある人による舞台表現の場合、彼らが舞台に立つという事実だけで感動してしまう観客が必ずいるのだ。それは、まるで過保護な母親のように私たちの表現の成長を阻むものにほかならない。こういった集団だからこそ、言い訳などしている場合ではないのだ。掛け値なしにいい作品を作るべきなのだ。私たちの活動は始まったばかりなのだ。私自身の舞台人としての人生のためにも、演劇と出会ってしまった彼らのためにも、環境を整備し、次につなげて行こうと思う。

倉品淳子

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