稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 越谷 真美 2015/09/10

「タイタス・アンドロニカス」の時代背景

『タイタス・アンドロニカス』は古代ローマ帝国を舞台にした作品です。
今から2000年もまえ、ヨーロッパに強大な帝国を築いた古代ローマ帝国。
領土をどんどん拡大しながら人類史上まれにみる繁栄を誇ります。
しかし3世紀頃になると内政が不安定な状態になり、広くなり過ぎた領土には絶え間なく外敵が侵略し、やがて帝国は東西に分裂、滅亡していきます。私たちはこの3世紀頃のローマこそ『タイタス・アンドロニカス』の時代ではないかと推測しています。
この時代は「3世紀の危機」とも言われています。
軍人たちが血で血を洗いながら皇帝の座を奪い合い、約50年の間に26人もの軍人皇帝が乱立したのです。当然政治はままなりません。
原作と同じように、ゴート族とも争いを繰り返しました。
「ナイススの戦い」ではゴート族に大勝し、皇帝だったクラウディウス2世は「ゴティクス=ゴートを征する者」と呼ばれたそうです。
しかし、彼は戦争の時に流行った伝染病で病没し、次に即位した皇帝は部下によって刺殺、その次の皇帝は心労で即位して半年で死亡、そのまた次の皇帝はわずか3ヶ月で自殺、その次の皇帝も兵士に殺されるという・・・。
ローマ皇帝の栄光はどこへやら。
この時代を経て、ローマ帝国は滅亡へむかっていくことになります。
そして劇中のタイタスものぼりつめた人生の絶頂から奈落へと転落していきます。
シェイクスピアのなかでも特に残酷で血生臭い作品と言われていますが、破滅へと向かう時代の空気はどこか現代にも通じるものがあるのではないでしょうか。

越谷真美

稽古場日誌一覧へ