稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 倉品 淳子 2015/09/24

与兵衛はなぜ、殺人をするのか?

みなさんご存じのとおり、「女殺油地獄」っていうのは簡単にいうと、お金欲しさに幼馴染を殺しちゃうっていう犯罪者の話です。

300年前に書かれたこの作品は現代の殺人鬼となんらかの共通性はあるのでしょうか?

加害者が男性であること。
単独犯であること。
世間を騒がせた有名な事件であること。
という三つの共通点で、いくつかの事例をあげ、検証してみましよう。
1968年 連続ピストル射殺事件の永山則夫、
2001年 付属池田小学校児童殺傷事件の宅間守、
2008年 秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大、
他にも、宮崎勤や、酒鬼薔薇と名乗った少年Aも記憶に残る事件でしたが、性的倒錯が一つの要因ということもあるのでここでは対象にしません。

ある臨床心理士の記録によると、宅間と加藤にはその時の記憶がないようです。
多かれ少なかれ乖離状態にあるというのです。

比較的記憶があると思われる永山則夫は銃で撃っています。銃とナイフでは大きく違うと考えます。

池田小事件の宅間守は逮捕直後は反省する様子もなく悪びれる風もなかったのですが、時間をかけて話を聞いていくうちに態度が変わり
「途中でもうやったらいかん、やめないかん思て、そやけど勢いがあって止まらんかった。誰かに後ろから羽交い絞めされた時、やっと終われるぅて、ほっとしたんや」
と話していたということです。

与兵衛のように執拗に何度も刀で刺すのはいったいどのような精神状態だったのでしょうか?
演劇では、本当に人を殺しません。しかし、本当に人を刀で刺したとき、人間は生ものですからいろんな液体やら、湿った物体やら、嫌な手ごたえやらがあるわけです。
それでもなお、しかも幼馴染を刺すというのは、お金以外に何か大きな要因があるのでは?
過去の映画などでみられる恋愛がらみの怨恨からの殺人という解釈は、一つの解答ですね。

下記は、スウェーデン人のマークボーマン氏の研究で子供が犯罪者になる確率です。
実の親に犯罪歴なし、育ての親に犯罪歴なし ・・・ 3% 
実の親に犯罪歴なし、育ての親は犯罪歴あり ・・・ 7%
実の親に犯罪歴あり、育ての親が犯罪歴なし ・・・ 12%
実の親に犯罪歴あり、育ての親に犯罪歴あり ・・・ 40%
その幼少期について、両親との関係に問題があるケースが極めて多く、生まれながらの犯罪者というのは確率的にはかなり低いと言っていいでしょう。

歌舞伎でも、文楽でも与兵衛が家で暴れて、母親から勘当を告げられるは観客の涙を誘う名シーンですが、両親との関係にゆがみがあったと考えてもいいかもしれません。

さて、山の手事情社の与兵衛はどのようになるのでしょう?

倉品淳子

※ 参考文献 長谷川博一:著 「殺人者はいかに誕生したか」他

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