稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 越谷 真美 2015/10/06

悲劇の原体験のこととか

子供の頃わたしにとって悲劇だったのは、ひとは皆死ぬ、ということだった。
原体験はおそらく、小学校低学年のときに祖父のお葬式に参列したことなんだろうと思う。
真冬の北海道、小樽からタクシーで1時間の片田舎に吹雪の中駆けつけると、死んだおじいちゃんが布団に寝かされていた。
いつも夏に遊びにきていたときの明るさとはまったく違う。
おじいちゃんの身体を綺麗にしてあげてね、と言われ脱脂綿のようなもので拭いてあげたけど、肌が異様に硬い。むくっと起き上がるのではないか。火葬場からバスで戻るとき、後ろを振り向くとあの世に連れてかれると言われ、怖くて怖くて仕方なかった。
もともと極端に臆病で、海にも入れなかったし、飛行機に乗せられたときは地上と今生の別れになるかもしれないと思って窓の外を眺めていたし、遊園地のぬいぐるみにさえ恐怖する有様。
幼少期いつも、いつか私の大事なひとたちはあのおじいちゃんのようになり、燃やされてこの世から消えてしまうんだということが悲しくて仕方なかった。

・・・と書きながら、泣きそうになっている。いまだに私はこの悲劇から逃れられていない。

演劇をやることは自分にとってはこの悲劇に対しての小さな小さな抵抗…なのだろうか。
無理やりつなげる必要もないか。
でも、もう死んでもいい!ってくらいの生があるのを知ったのは舞台のおかげ。それは確かだ。

越谷真美

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。

『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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