稽古場日誌

詩人の谷川俊太郎さんのエッセイ本に、“若い時、僕は不幸コンプレックスだった”と書いてあった。
初めて読んだ時、凄く共感した覚えがある。
言葉は悪いが、
「不幸」では無い自分は、
「不幸」な境遇にある人と比べると、人間として足りないものがあるんじゃないか?
と、なんとなく焦っていたからだ。

心理学的には、逆だろ?  と、思われるだろう。
その上、不幸な境遇の人に対して失礼なんじゃないか?
ただ私は、別に特に幸福なわけでもなかったんだけど、そう思っていた。
そのため、悶々とした気持ちでいた中で、冒頭の言葉に出会ったのだ。

「ああ、そっか。この気持ちって、コンプレックスなんだ」と、腑に落ちた。私は、不幸に憧れてたわけです。

(谷川さんは、著名な友人達のバックグラウンドと、創作との関係性で書いていたので、谷川さんでもそんなこと思ったんだ~と、意外に感じて、親近感を持ったのもある。)

今は年も重ね、そんなふうに感じてたなぁ~~と、思い返します。
不幸なのか、幸福なのか、そんなこととは関係なく、生きていたりするのだ。
もしかしたら、それ自体が「悲劇」なのかもしれない。

中川佐織

写真は野崎観音・慈眼寺の奥さまと。

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。

『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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