稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 倉品 淳子 2015/10/25

ああ、世にも特殊な生き物、母よ!

人間の中には、男と女の他に、母という生き物がいます。
それは、大地や海に形容され、無償の愛で子供を包む、最上級の女神のような存在。

が、近年、育児ノイローゼや虐待などが社会問題となり、そんな神格化も時代遅れか? という風潮であります。

と、おもいきや。私の経験談であります。近しくお付き合いさせていただいていた男性ですが、男らしく、何事にも動じず、簡単には感情を表に出さない人物がおりました。ある日、私は母との関係が思わしくない事、その原因などについて彼に話したところ、「母親のことを悪く言うな!」とさめざめと泣いているではありませんか! しかもなんとなくご自分の母親の事を思い浮かべ心酔しておられる様子・・・。私の心は冷えに冷え、1秒200mくらいその方から引いてしまいました。

さて、そんなわけで、母親の愛情絶対主義派はまだまだ健在です。「女殺油地獄」が書かれたのは江戸時代、何をか言わんや。物語中盤の盛り上がり、母が泣けば劇場が震えるほど観客も号泣であります!

今回、私の演ずる母親では、そんな気持ちのいい涙は流させません。母は、おかしい、狂っていて、自分のことしか考えられず、子供は自分の所有物であり、家族をコントロールすることを生きがいとし、母の愛は絶対という伝家の宝刀で子供の心を切りつけにやってきます。そんな母親という生き物の奇態を、垣間見てもらうことができたら、と思います。まだまだです。

ただ、そんな奇形ぶりも含めて、母親という化物に惹きつけられてなりません。生涯をかけて解明するにたる存在だと思っています。

倉品淳子

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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