稽古場日誌

傾城反魂香 越谷 真美 2017/09/17

『傾城反魂香』を深読みしてみよう

『傾城反魂香』は江戸時代にかかれた作品なので、現代の私たちの感覚からすると「?」なところが結構あります。
なかでも物語の中盤、主人公の元信とみやが4年ぶりに再会したときの元信の行動はなかなか理解しがたいものがあるのではないでしょうか。
みやは再会を喜び、元信が世話になっている名古屋山三の前で「元信の女房はこのみやひとりとはっきり言わせてください」と懇願するのですが、元信はそれを切腹すると言って拒絶します。
世話になった山三に恩があるとはいえ、なにも切腹まで持ち出さなくても?
元信は上司の言いなりで、心変わりした薄情な男なのか? 
思わず突っ込みを入れたくなるシーンです。
しかしここで知っておきたいのは、武士の生き方について。
武士にとって「忠義」という言葉はとても大切ですが、主君の言いなりになるということではないのだそうです。
己の正義に従って主君に意見することもあり得る。
武士は民に仕える存在、今でいえば「公務員」のようなものですが、武士の主従関係は決して上の言いなりではありません。
己の正義に従って仕える主人に恥をかかせないことは武士にとってとても大切なことでした。
だから、刀を捨ててまで自分を守ろうとしてくれた山三の恩に報いることは元信にとって至上命題なのです。
同時に「武士に二言なし」というように、武士は自分の言ったことに責任をとることを大事にします。
みやと結婚の約束をしておきながらそれを叶えられない状況というのは男として恥ずかしい事態なのです。
そう考えると、どうでもいい女だったら切腹とまで言わなかったかもしれない。
元信なりに尋常ならざる葛藤があるわけです。

視点を変えて、もうひとつご紹介しましょう。
さきほどのシーンの後もみやは元信を諦めきれず、とうとう元信と姫の婚礼の日に白無垢を着て登場します。
彼女の想いの強さもただならぬものがありますが、ただ諦めの悪い女、ではないんです。
白無垢は昔も今も花嫁衣装の定番ですがその由来は死装束にあるそうです。
そして当時の婚礼の多くは夕方から夜にかけてとり行われました。
後のシーンでみやが幽霊であることが明かされますが、つまり当時のお客さんはこのシーンですでにみやが生きた人間でないことを予感したのではと思われます。
このシーンで姫は夫をみやに貸し出すことに同意します。姫も武家の娘なので、個人的な感情よりも他人の悲しみを受け止める度量の深さが見せ所のシーンですが、死者と対話するシーンだと思って見てみると、さらに深みが増すというか、なんだかすごいシーンだなと…思いませんか?

余談ですが、日本人の喪服は戦前まで白が定番だったそうです。
「白喪服」で検索するとそちらの情報や画像も色々出てきます。
常識なんて時代でまったく変わってしまうものなんですね。

長くなりましたが、まだまだ「?」があると思います。
そこを観劇後に調べていただくのもまた一興。

お待ちしております!

越谷真美

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『傾城反魂香』
2017年10月13日(金)~15日(日)
大田区民プラザ 大ホール
公演情報はこちらをご覧ください。
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