稽古場日誌

あたしのおうち 倉品 淳子 2019/02/02

昔があって今があるってわけじゃないです。

ご存じのように、山の手事情社は今年35周年である。
第一回目の研修生は、1996年というから、研修生というシステムを開始してから、23年が経過している。
そのうち私が担当した研修生は、この1996年、2001年、そして2013年の3回だけだと記憶している。
初めての担当は、前例もないし自分も未熟だし、ただもうがむしゃらで細かいことは覚えがない。
2回目の担当の時のことだ。
「演劇とはかくあるべし!」と血気盛んだった私は、口角泡を飛ばしまくっていた。
即興の稽古をしているときのことだ。研修生の一人が、「できません」というのを、「とりあえず出てやりなさい!」と言って追い詰めてしまった。彼女はこれがきっかけで研修生を辞めてしまった。私が34歳の時の所業だ。
もしかしたら、のちに山の手事情社で俳優として活躍したかもしれない、若い芽を摘んでしまったのだ。
何年後かに、知り合いの劇団の本公演で生き生きと演じている彼女を見て、少なくとも俳優としての彼女の芽は摘んでいなかったのだと、胸をなでおろした。
 
この体験は、私にたくさんのことを考えさせた。

俳優を指導するということは、どういうことか? まだ経験も思慮も浅かった私は、ただ安田雅弘の真似をしていたのだと思う。私は私のやり方で俳優と向き合わなければならなかったのだ。自分は何が好きで、どういう世界を実現させたいのか、それをなおざりにして、俳優と向き合うことはできない。
私はいまだに自分のやり方を見つけてはいない。演出をするたびに、指導をするたびに、激しく迷う。
3回目の2013年の時も不安をさとられないよう自信たっぷりな態度をとっていたが、実はすべてにおいて迷いまくっていた。
終わってからも、いいものを作ったという自負があるのと同じくらいに、あれでよかったのか? もっと深く踏み込めたのでは? という思いも残っている。正解には、一生たどり着けないのだと思う。(当時の研修生だった方々はこれを読んで驚くのかな? いや、「わかってましたよ! 淳子さん!」とか言われそうな気も。見え見えだったかもしれない。)

23年分の蓄積がある、この劇団の研修生修了公演だが、今年担当の越谷真美にとっては初めての体験だ。研修生担当――嗚呼! この苦しさと愉悦のつまった役割!!

どうか、この“struggle” 楽しんでほしい。
(私、この単語が大好きなんです。もがく、あがくとかって訳すのですが、音の響きやリズムから体がよじれうごめく様子が想像されて、劇的な言葉だなーって。すみません……。)

倉品淳子

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あたしのおうち

2018年度研修プログラム修了公演『あたしのおうち』
日程:2019年3月6日(水)~10日(日)
会場:大森山王FOREST
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2019年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
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