稽古場日誌

オドラデク 栗田 直輝 2020/03/27

4年

劇団の稽古場の扉を叩いてから、いつのまにかそんな月日が経った。
四半世紀生きた。
そんな節目の年の終わりに、父が他界した。
俳優活動を応援し、散々甘やかしてくれていた父が死んだ。
未だに涙は流れていない。
実感がわかない。
ドラマや漫画だと「そんな……父さん! 俺を置いていくなよ!」と、長男が号泣するシーンは見せ場だというのに。
俳優は食えない、お金が無いという日々持っていた焦りと、肉親が死んだのに自分だけ涙も出なかったという違和感。
今後、彼の励ましの言葉が聞けない、という寂しさ。
色々な感情が混乱している所に、今回の修了公演『オドラデク』に特別出演として声がかかった。

「オドラデク」は、イキモノでもモノでもない、まるで肺のない枯葉のような笑い声をあげるなにか。
カフカの短編『父の気がかり』に出てくる。
主人公の父はそんななにかに「この遺伝子を残したくない」とか、「自分が死んでもこのなにかはずっと子孫の代まで存在し続けるのか」と、不思議な焦燥感をずっと抱えている。

稽古場では、この「オドラデク」とやらは、父の持っている不安、焦りが具現化したものでは?
という話が出てきた。
だとしたら、目の前に二度と「オドラデク」が現れなくなったら父はスッキリするのだろうか。

そんな「オドラデク」が出てくる今回の修了公演に出演する研修生4人、そして僕の中の「オドラデク」は何が原因で出現したのか。
この公演を経て、我々の目の前から消えてくれるだろうか。

新型ウイルスや、色んな事できっと「オドラデク」が大量に発生している。そんな時だからこそ、大田区の山王フォレストにて、一同お待ちしております。
まるで肺のない、枯葉のような笑い声をあげに来て下さい。

栗田直輝

**********

odradek

2019年度研修プログラム修了公演『オドラデク』
日程:2020年4月8日(水)~12日(日)
会場:大森山王FOREST
詳細はこちら

『オドラデク』公演について

稽古場日誌一覧へ