稽古場日誌

オドラデク 研修生 2020/03/29

愛すべきダサさ

「私は自分のことが嫌いだ。」という書き出しの文章をよく見る。
その書き出しには共感しかねる。むしろ結構自分のことは好きだ。
私は欲望に対して素直だし、好奇心のまま生きている。自分の意見を述べることも得意だし、好きな人には面と向かって好きと言える。常識に囚われず、人からは パンクだとか ハードボイルドだとか言われる。
そんな性格なので、カフカの小説や文章を読んでいると、ウジウジしててダサくてイライラしてくる。
前に研修生の同期から「十紀子みたいな人には演劇が必要ないんじゃない。」と言われた。演劇は現状の自分に満足できない人がやるものらしい。そうなのか。確かに自分に満足しているならわざわざ舞台上で変身する必要はないのかもしれない。
しかし私は演劇をやりたいと思ったのだ。自分を好きな人間だって演劇をやっていいはずだ。
恐らく、私は自分がカッコイイと思っている自分だけを人前に晒すのが得意なのだ。
私の中に在るたくさんの人格の中で、ひとりで居る時にしか出てこない自分が何人かいる。彼らは人前に出る人格たちとは対照的で、とてもビビリで泣き虫で、厭らしく、秩序や常識に囚われていて、人を傷つけたり人に傷つけられたりすることを恐れる。ウジウジしていて、まるでカフカみたいな奴らである。
私はそういうダサいけど人間臭いところも含めて自分が好きだ。彼らの存在を人に知って欲しいと思う。
「父」が「オドラデク」を気がかりに思っているように、私はダサい自分を気がかりに思っているのだろうか。
しかし彼らは人前に決して出ようとはしない。というか、カッコつけの自分が押さえつけてるのだ。
劇団の先輩が「舞台の上では自分じゃないから何をしてもイイ。だから演劇をやる。」と言っていた。日常で好き放題やっている私は、その気持ちが正直よく分からなかった。でも今なら分かる気がする。
ダサい自分に、自分ではない誰かを着せてスポットライトを当てる為に私は演劇をやるのかもしれない。自分じゃなければ、カッコつける必要はないからだ。
演劇によってカッコつけの私から捻り出されたダサい私が舞台の上でどう生きるのか、是非劇場に目撃にし来てください。

柴 十紀子

**********

odradek

2019年度研修プログラム修了公演『オドラデク』
日程:2020年4月8日(水)~12日(日)
会場:大森山王FOREST
詳細はこちら

『オドラデク』公演について

稽古場日誌一覧へ