稽古場日誌

こくごのじかん 宮﨑 圭祐 2022/07/22

李徴の魅力

『山月記』とは人間が虎になってしまうというなんともファンタジー感のある作品です。そんな作品の主人公、「李徴(りちょう)」の魅力について書いていきたいと思います。

李徴は「豊頬(ほうきょう)の美少年」と書かれる程イケメンで、「博学才穎(はくがくさいえい)」、若くして役人になれる程優秀なのです。
そのせいかプライドが高く、周りの人間を鈍い奴らと思い、せっかくの役人を辞め、詩で名を残してやるぞと詩作に没頭します。しかも独学。なんたる唯我独尊ぶり。
しかし、容易に名は揚がらず、再び役人職に戻るも、発狂し、ついに虎になってしまいます。
虎になった後ではプライドの高さが反転したかの様に彼の弱さが滲み出ます。

李徴は虎となっていく自分に恐怖し、弱音を吐き、誰も己の気持ちをわかってくれないと吠えたり、詩の師匠に付いて学べば良かったと過去に対する未練を悲しげに話したりと、唯我独尊に見えた李徴の印象がだんだんと変わってきました。
オマケに寂しがり屋なんですコイツ。可愛い奴です。人との交わりを避けていたくせに、虎になったあとは再会した親友に対してよく喋る。『山月記』はほとんど李徴の問わず語りなんですよ。
オマエ実は人と交わるの好きなのか? でも、そんなに誰かに喋りたくなる程、虎の生活は孤独だったのかなとも思うと、自分語りの切実さが胸に響きます。
挙げ句の果てには、虎となった今でもお偉いさんの机の上に自分の詩集が置いてある夢を見ることがあると告白しちゃう。虎になっても諦めきれないんです。名を残す野望を捨てられないんです。
でももう叶わないんです。切ないじゃないですか、愛おしいじゃないですか!

李徴は優秀な人間ではあったのだと思います。しかし上記の様な描写から、優秀ではあっても完璧ではなく、普遍的な人間臭さを持っていると感じました。虎になってから滲み出した人間臭さこそ「李徴」の魅力なのです。

さて、山の手事情社流『山月記』を作るべく日々稽古しているのですが、とても難しいです。
どういう身体で表現するか、ダンスを入れてみるのはどうか、様々なアイデアが出ています。『山月記』でダンスとな? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
面白くする為ならば、とそれこそ発狂して虎になるくらいに作っては壊しの繰り返し。
我々の『山月記』は、そして「李徴」は何処へ向かうのか、その結末は是非皆様の目でお確かめ頂けたらと思います。
皆様のご来場を心よりお待ちしております。

宮﨑圭祐

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『山月記』あらすじ

昔、秦の国の隴西(ろうせい)という地に李徴と言う男がいた。
若くして役人となるも、自尊心の高さゆえに役人を辞め、己の名を残すべく詩作に耽るが上手くいかない。
生活の為に再び一地方の役人となるが、李徴の自尊心は傷付き、追い詰められてゆく。
一年の後、公用での旅先で遂に発狂し、李徴は虎になってしまう。

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『こくごのじかん』omote

『こくごのじかん』
日程:2022年8月19日(金)~20日(土)
会場:大田区民プラザ 大ホール

詳細は こちら をご覧ください。

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