稽古場日誌

もともこもない話、演劇も俳優もそもそも私はまったく向いていない。
ひと前にでるのは緊張するし、恥ずかしいし、マイペースで集団行動も苦手だし。でも、だからこそ、舞台に立つことには強烈な憧れがある。これほど難しく取り組み甲斐のあることはほかにないとも思っている。

演劇をはじめた頃ある先輩に、
「この世界で生き残るにはどうしたらいいですか?」
と質問したところ、
「おもしろいこと」
と返ってきた。なぜかそれがとっても印象的でずっと胸に刻まれている。

しかし、山の手事情社に入団して2年目くらいのとき、主宰の安田さんに「次の《個人発表》おもしろくなかったら退団だからな」と言われてしまった。さっそくヤバいではないか!
《個人発表》では、《ものまね》をするひとが多かったが、おもしろければ何をしてもいい。「おもしろいって何?」ということに初めて追い詰まって向き合うことになった。
そして私は、当時自分にとって一番切実と思われたことをとにかく暴露することにした。
Y字開脚しながら聖書を破ったり(学生時代に新興宗教とかかわって大失敗した記憶から)、「普通」とつぶやきながら逃げまどったり(母に「普通じゃない」と怒られていたことから)してみた。
なんかやったことがちょっと自分でも新鮮だったんだと思う。ひとまず退団は免れた。でも、それからたぶん私は勘違いをはじめた。演技は自分自身じゃなくなるから、つまらない自分から逃げられるからおもしろいのだと。

5年前、ニュージェネレーション公演(当時はまだ修了公演と呼ばれていました)を担当した年のことだった。
かなり自信を無くしていた。具体的に俳優として、劇団員として評価されていないと肌身に感じていた。研修生(ニュージェネレーション)と年度末に作品をつくって公演する。改めて俳優とは、おもしろいとは、いつもと違う立場で切実に向き合う機会になって、彼らの芝居をみながら本番になって気づいたのだ。
演技は、自分から逃げることじゃない。自分を取り繕わずそこにいるための技術なんだ。
うまく言い表せないのだが、逃げないでそこに立ちどまるということだと思った感覚は、ずっと焦っていた自分にはかなり衝撃的で、大きな気づきだった。

十何年もかかって気づくんだからしょうもないが、それから演劇がようやくおもしろくなってきた気がしている。

今年もニュージェネレーション公演の時期がやってきました。
いろいろと忙しない世の中ですが、少し立ちどまって演劇でもいかがでしょうか。

越谷真美

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ニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』
構成・演出=谷 洋介

日程=2024年2月28日(水)~3月3日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

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