稽古場日誌

僕らはみんな逃げている 渡辺可奈子 2024/02/15

[稽古リポート 2月5日]谷 洋介を逃すな!

山の手事情社には共通言語みたいなものがある。日本語ではあるのだが、感覚的な事を伝える時に使う言葉だ。
例えば「身体を重く使って」とか「もっと丹田を意識して」とか「相手をとって」など、私はそれを身体言語と呼んでいるが、正直なところ、分からない人からしたら、重い身体ってなんのこっちゃいだし、相手をとるって……と「???」の連続だろう。
私も初めはそうだったし、もしかしたら今でも理解出来ていないかもしれない。今日の稽古場でも演出の谷洋介からそんな言葉たちが飛び交っていた。

「別次元の俯瞰した感じになって欲しい」
「ソウルが合えば揃う」
「内側からパーンって撃たれた感じでしょ?」
「切羽詰まって泣いて欲しいんだよ」
などなど。

山の手事情社の稽古では、声や感情はもちろんだが、身体言語を駆使して協調性を図る印象がある。ニュージェネレーションの公演というのは、その身体言語を理解する為の最初の関門だと私は考えている。

普段の先輩としての谷さんは無口だ。後輩の私からすると、何を考えているか分からないので怖いような、そうでないような気がして、未知の人である。そんな多くを語らない谷さんが、何に興味を持ち、何を考えているのか? ニュージェネレーションの稽古場では、それが溢れていてとても新鮮だった。そして容赦なく切る。

「正直これ面白くないです」
「全然ダメ」

稽古場にピリッとした空気が流れる。
面白い世界を作る為に妥協せず、真剣に向き合っているからこその一言だったようにも思う。演出の谷 洋介が恐らく苦手とする「言葉」を尽くして出演者達に、自身の中にしかないイメージを、感情を、身体を伝えようとしている事がよく分かった。ただ、この感覚を捉えるのがなかなか難しい。

しかし私は思う。

ニュージェネレーションたちよ、谷 洋介を逃すな! 食らいつけ!

もしかしたら本番まで追いつけないかもしれない。
きっと谷さんはそれくらい早いスピードで走っていくだろう。時々チラチラ後ろを見たりしながら、早く俺を捕まえてくれ! と言う気持ちで。

稽古場はサバンナだ。食らいついたものだけが生き残るのだ。
これはもうオーディエンスの私たちには、頑張れとしか言えないのだ。

本番まで間も無く。
とにかく谷 洋介を逃すな。

渡辺可奈子

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ニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』
構成・演出=谷 洋介

日程=2024年2月28日(水)~3月3日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

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