稽古場日誌

僕らはみんな逃げている 山口 笑美 2024/02/23

守られていた時

先日20年ほど前に研修生(現在のニュージェネレーションのこと)を経験した後輩達と久しぶりに会う機会があった。
みんな演劇とは離れた世界で生きているが、研修生時代に経験したことが、自分が今生きるうえでの核になっていると話していたことがとても嬉しかった。
そして「最近あんなに怒られることないんですよ、怒られたいですよ」、続けて、「そういえば笑美さんめちゃくちゃ怒られてましたよね〜まだ続けているのびっくりです」と。

確かに私は10年以上演出に怒られっぱなしだった。
怒られることも今は「パワハラ」となってしまうご時世だが、すぐさぼってしまう私にとっては必要なことだったなと思う。
舞台上で持っている小道具の箱の角度が悪く、出てくる度に「箱!」、動く度に「箱!」、演技以前に「箱!」としか言われなくなった。
演技をはじめても、台詞を一言発した瞬間にものすごく怒鳴られた。
「風邪ひいてるだろ!」
気合い入れて挑むと、「息つぎがうるさい!」
何をしても、「違う! 違う! ぜんぜん違うんだよ〜!! ぜんぜんみえないよ〜! つまんないよ〜!」の連続だった。
怒られすぎて何が面白いのか分からなくなって、髪型でその役らしくしてみようと姑息な手を使ってみたこともあった。
そんな甘っちょろい考えはすぐバレて、出番を終えて去る時に、「なんか髪型変だぞ! そんなところじゃないだろう〜!!」と客席からマイクで怒号が飛んできた。
舞台裏ではみんな爆笑してたな。私も爆笑。
そりゃそうだよな。
そんなとこじゃないんだよ、と分っているけど正解が分からないのでとにかくいろいろやってみるしかなかった。

よく怒られ、そして悔しくて悔しくて、何くそ! 絶対やってやる! 絶対面白い役にしてやる!! と常に思っていた。
そんな十数年、お陰で負けん気根性で続けてこられたと思う。

だんだんと年月が経ち、大きな役を任されるようになると、ある時何も言われなくなってくる。
作品の責任は私にある。
いきなり大きなものがのしかかってくる不安と恐怖。
でも、そこからが舞台での本当の闘いになった気がする。

怒られることで守られていたんだ。

そんな風に思う今、私は怒られることを避けてしまっているかもしれない。お行儀よすぎじゃないか、私、つまんないよな。
今、がむしゃらにもがいているニュージェネレーションのメンバーの姿の方が断然面白く素敵だと思う。どんどんやっちゃえ〜。

今回の演出の谷くんに守られている時間もあと少し。
本番を迎えお客様の視線を浴びてどんな姿になるのだろう、とても楽しみだ。

ニュージェネレーションでの体験が、この先の人生での糧に少しでもなってくれたらと思う。

山口笑美

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ニュージェネレーション公演『僕らはみんな逃げている』
構成・演出=谷 洋介

日程=2024年2月28日(水)~3月3日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

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