稽古場日誌

その他研修生 安田 雅弘 2020/07/18

よき俳優になるには

山の手事情社では9月から、
コロナ感染拡大防止に最大限の注意を払いつつ、

【劇団員になるための集中ワークショップ】

を実施する。

半年間。

今までは「俳優になるための年間ワークショップ」と言って来た。
伝える内容が大幅に変わるわけではないのですが、期間も半年ということで、
「即戦力となる、舞台に出たくて出たくてうずうずしているエネルギッシュなヤツ募集!!」
というわけである。

さて、よき俳優になるには?
分かりやすく、料理人にたとえてみよう。
意外かもしれないが、実は演劇は料理によく似ている。
「その日その場でしか味わえない」
「すぐに消えてしまう」
料理番組を見ていると、「食べたいなぁ」とは思うけれども実際に味わえるわけではない。演劇も映像にすると、実はそれに近い。劇場でナマで見るのとは大違いなのだ。もし映像で見てもナマで見ても変わらない演劇があるとしたら、それは演劇としては間違いなくつまらない。
では、よき料理人になるには?
まず「うまいもの」を知らないとね。
おいしいものをたくさん食べているかどうか。
料理人ってのは「うまいもの」を作る人のことだ。
その人がろくに「うまいもの」を食べたこともなく、「うまいもの」情報に疎かったら信用できないでしょ?
つまり、お芝居で言えば、「すぐれた舞台」「面白い演劇」に数多く触れること。
そして劇場に新しいワクワクを常に求めていること。
尋常でない舞台芸術への好奇心。
演劇でなくてもいい。ダンスでも演芸でも芸能でも。さらに言えば映画、音楽、美術、アニメ、マンガ、小説、ゲーム、何でもいい。
わざわざ出かけて行って観る、眺める、覗く、そういう好奇心がとてもたいせつなのである。

もちろん「うまいもの」だけ食べていても、「うまいもの」が作れるようになるわけではない。
味覚を鍛えることは大事だけれども、調理のノウハウが身についてはじめて料理人である。
素材の選び方、処理の仕方、和食で言えば出汁の取り方、包丁の使い方、料理の盛り方といった基本は欠かせない。
残念ながら独学ではおぼつかない。師匠なり先生なり先輩なりが必要。手取り足取りでないまでも、見てまねる対象。相談できるお手本。こつを教えてくれる先達。まねて習得することを盗むという。盗めるようになれば、自力で進んでいけばいいんです。
俳優にもないようであるんですよ、ノウハウが。

たくさん。

声と身体を使う仕事です。味覚の代りに耳や身体感覚が必要になる。耳が悪いと(聴覚に問題がある、という意味ではないよ)自分の声が繊細に聞き取れないから、よい声が出ない。だから耳を鍛える。「えー、どうやって?」って思うでしょ? これは師匠なり先生なり先輩がいないと学べない。身体感覚も同じ。怒ったときにどんな身体になってる? 考えたこともないでしょう。でも舞台で怒っている役は山ほどある。独学ではどうにもならない。専門的な養成が必要なんです。
ものの捉え方や考え方も大切。すぐれた先人に出会うと、自分の考えの偏っていたところや、無意味に固執していたことがわかってすっきりする。
もうおわかりだと思いますが、劇団で研修をする意味はそこにある。
どうすればよい俳優になれるか、考え続けて悩んでいる先輩たちが揃っています。

とは言え、いきなり半年間に挑戦するのはハードルが高い。それもわかる。
そこで今回は

【劇団員になるための集中ワークショップ・体験版】

もしくは

【一日体験入団】
チラシ

というお試しコースをご用意した。
ま、一回やればわかります。
向いてるか向いてないか。好きか嫌いか。面白いかつまらないか。

山の手事情社の養成法の特長を一言でいえば、上述の耳や身体感覚を鍛えるのは当たり前として、それ以上に

「面白くなるにはどうすればいいか、徹底的に本人に考え抜かせる」

ということではないかしら。
正直、きついと思う。過去の研修生の皆さんの体験談を読むと、異口同音に「ハードだった!」と語っている。けれども、悪戦苦闘苦心惨憺四苦八苦せずに「うまいもの」ができるわけないと思いませんか?
「どうすればいいの?」という状況に追い込まれると、人間は火事場の馬鹿力を出しやすい。こわくて逃げたい時もあるだろう。そういう時は逃げればいいの。でも立ち向かおうと思うと、自分でも思いがけないアイデアやパフォーマンスが生まれ出るものなんです。そういう現場を何度も見て来た私には、不思議だけれども、ほんとうにそう思う。
実は「ハードだ」ということが重要なのではない。
「ハード」の結果、自分の納得できる「うまいもの」にたどり着くことが有意義なんだな。

さまざまなアドバイスを受けるとは言え、自力で作った「うまいもの」。すなわち「面白いもの」。具体的には《ものまね》だったり、《漫才》だったり、《寸劇》だったり、《ダンス》だったりする。インストラクターがOKを出したものは、今後どの舞台現場に行っても通用する。名刺代わりになる。「あぁ、こんなことできるヤツなんだ」と一目置かれる。保証する。何より自信になる。次に進むモチベーションになる。

イメージしにくいようだったら、今年の4月に上演された昨年度の研修生の修了公演の映像がある。

『オドラデク』
W

という題名の公演だ。あいにくこのコロナ禍で、無観客上演を余儀なくされた。けれども、高性能カメラ四台で撮ったプロのカット割り編集によるこの映像は、わずか一年間で研修生がどのような「おもしろいもの」を手に入れたか目撃できると思う。

迷っているなら踏み出してみよう。

安田雅弘

**********

研修プログラム・カリキュラムの詳細は こちら をご覧ください。

これまでの研修プログラム体験談は こちら

2020劇団員募集omote2020劇団員募集ura

稽古場日誌一覧へ